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宇都宮けんじブログ

週刊朝日「林真理子のゲストコレクション」対談

『週刊朝日』連載、林真理子さんの「マリコのゲストコレクション」に宇都宮けんじがお招きいただきました。『週刊朝日』(2016年10月14日号)より、抜粋してお届けします。

http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=18471

(前略)

林 宇都宮さんは日弁連の会長をされていたんですよね。よく会長になれましたね。

宇都宮 アハハハ。

林 ごめんなさい。お金持ちの弁護士さんがなるイメージがあって(笑)。

宇都宮 会長になるのは、大きな事務所の人ばかりでしたからね。私の場合は事実上カンパでやりましたが、会長選には数億円かかるとも言われていました。「あの人は、マンションを1棟売った」なんて話も聞きました。

林 えっ。会長になると、何かいいことがあるんですか。

宇都宮 いや、名誉職ですね。顧問会社を増やす人もいるかもしれませんが、私の場合はほとんど増えていません。だけど私が会長になることで、弁護士会として貧困や格差の問題にもっと取り組めるんじゃないかと思ったんですね。

林 会長として、司法試験の改革にもかかわってるんですか。

宇都宮 私は2010年に会長になりましたが、司法改革は2001年から始まっています。改革では司法試験合格者をどんどん増やしていきましたが、弁護士のニーズは増えていない。試験に合格しても就職先のない人が出て、経済的に厳しくなる弁護士が増えていきました。

林 そうみたいですね。昔は弁護士さんというと金持ちのイメージでしたけど。

宇都宮 それで私のときに初めて合格者を減らす決議をやったんです。さらにいまの制度では、司法修習生に給与が払われる給費制が廃止された。アルバイトは禁止されているので、生活できない人には国がお金を貸す貸与制になった。ロースクールで高い授業料を奨学金で払っていたりしますから、弁護士になったとたんに1千万円ぐらい借金してる人がザラなんです。「弁護士になって最初にやる事件が自己破産申し立て」という冗談もあるくらいで。

林 そんな……。

宇都宮 これでは経済的に余裕がない人は弁護士になれない。社会的弱者や少数派の痛みがわかるような人こそ弁護士になれるようなシステムじゃないといけないのに。それで司法修習生の給与は維持されるべきだという運動を、会長のときにやったんです。いまも「給費制の廃止は憲法違反だ」という裁判を全国でやってまして、私がその弁護団の団長なんです。

林 弁護士には、昔のステータスを取り戻してほしいですよね。

宇都宮 ちょと厳しい状況にありますね。社会的弱者や少数者の味方になる人が減ることがいちばん心配です。弁護士法の第1条には「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」とありますが、最近はブラック企業の顧問になったり悪徳業者の手先になる人が増えていて、これはけしからんことです。人権の守り手が増えない改革は、改悪だと思います。

林 貧しい家庭に育っても、「弱い人の味方に」という人もいれば、「お金を儲けてやろう」という人もいるじゃないですか。宇都宮さんは完全に前者なんですね。

宇都宮 私もお金持ちになって早く親を楽にさせてやりたいと、プロ野球選手を目指して野球ばっかりやってた時期があるんです。それで熊本の中学に行ったら、野球部だけで100人以上いるんですね。背も低いですし、これはとてもレギュラーは無理だと挫折しました。それでしょうがないから勉強にかけようということで……。

林 そう思ったとしても、普通の人は東大になんか行けないですよ(笑)。

(後略)