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宇都宮けんじブログ
「希望政策フォーラム2022本当にいいの?都立高校入試に英語スピーキングテストの導入で中学生を混乱の渦に(大内裕和×宇都宮健児対談)」(2022年4月30日)のご報告
はじめに
4月30日(土)14:00~16:00に希望のまち東京をつくる会の主催で、武蔵大学人文学部教授で「入試改革を考える会」代表でもある大内裕和氏と、宇都宮健児当会代表が、東京都が都立高校入試に導入しようとしている英語スピーキングテストの問題点について語るトークイベントをオンラインで開催しました。
【希望政策フォーラム2022本当にいいの?都立高校入試に英語スピーキングテストの導入で中学生を混乱の渦に】
主催:希望のまち東京をつくる会
開催日:2022年4月30日(日)14:00~16:00
開催場所:オンラインイベントにて実施
現在の中学3年生が受験予定の英語スピーキングテストの問題点
東京都教育委員会は、現在の中学3年生が受験する令和5年度都立高校入試に、中学校英語スピーキングテスト(English Speaking Achievement Test for Junior High School Students=ESAT-J)を導入する方針です。受験者は約8万人で、ESAT-Jの実施は今年11月27日の予定です。事業主体は東京都教育委員会ですが、運営は都教委と協定を結んだ(株)ベネッセコーポレーションが担います。採点はベネッセの関連会社がフィリピンで行い、採点結果は来年1月中旬に受験者及び中学校に返送され、2月の入試に20点満点で加点される予定です。
大内氏は、都立高校入試への英語スピーキングテスト導入の問題点を10点指摘しましたが、私が特に気になったのは下記の5点です。
- 1. 公平・正確に採点できるのか疑問
英語のスピーキングを正確に評価するには膨大な時間と手間がかかる。8万人もの回答を11月末から1月中旬までの約1か月半で正確・公平に採点できるのか、採点者等の詳細も明らかにされていない。
- 2. 不受験者の扱いが不適切
ESAT-Jを受験しなかった場合、学力検査の結果からスピーキングテストの得点を仮に算出して加算する、としている。このような算出はスピーキング能力を測るものではなく、不正確である。スピーキングが苦手な生徒がESAT-Jをわざと受験しない、ということも起こり得る。
- 3. 採点結果の通知内容が不十分
受験生に通知される採点結果は、総合得点と「ESAT-Jグレード」のみで、細かい配点などがわからない。しかも、通常の学力検査は、得点表と答案の写しが開示請求できるのに、スピーキングテストについては開示請求に応じないとしている。
- 4. 家庭の経済格差が教育格差を拡大する
40人学級を基本とする公立中学校の授業では、授業時間内に全生徒に英語を十分に話させることは困難。授業で十分に習熟できないとなれば、少人数制の塾やオンラインの英会話教室など、校外の教育機関で英語を話す機会を得られる生徒の方が有利になり、家庭の経済格差が教育格差を拡大することになる。
- 5. GTECと利益誘導および不平等性
ESAT-Jは、(株)ベネッセコーポレーションが実施している英語4技能(読む、書く、聞く、話す)検定であるGTEC(Global Test of English Communication)に、問題・採点基準ともに類似している。その結果、GTECとその関連教材・講座の需要が高まり、同社への利益誘導となる。都内では、中学校でGTECを実施しているところと未実施のところがあり、練馬区、目黒区、多摩市、町田市など、GTECを実施している自治体の生徒が、実施していない自治体の生徒よりも受験において有利となる。
以上のように、中学生の英語スピーキング能力を高めるべきではあっても、それを都立高校入試に導入することには多くの問題点があることがわかりました。英語スピーキング能力を公平・正確に評価するのは難しく、一度に8万人もが受験する都立高校入試に導入するには無理があります。しかも、東京都自身が評価するのではなく、一企業に丸投げするため、利益誘導や、採点結果の開示請求ができないなどの問題が生じます。そして、学校の授業だけで英語スピーキングに習熟するのは難しい状況で、入試に導入することで、経済格差が学力格差を生み出すことも大きな問題です。生徒のスピーキング能力を高めることを目的とするなら、入試に導入するよりも、少人数で英語スピーキングを十分に学べる教育環境を整えるべきではないかと思います。
今年7月までに、都立高入試への英語スピーキングテストの導入中止へ!
質疑では、英語スピーキングテストの都立高入試への導入が、都民にあまり知られておらず、現場の教師の意見も反映されていないことが大きな問題点として指摘されました。小金井市議会で、都立高校入試への英語スピーキングテスト導入の延期・再検討を求める意見書が採択されましたが、そのような議会の動きを広げることや、「都立高入試へのスピーキングテスト導入の中止を求める会」が集めているオンライン署名を広めること、などが提案されました。
2019年に、予定されていた大学入学共通テストへの英語の外部検定試験の導入は、受験生の申し込みが始まるはずだった11月1日に見送りが発表されました。これに倣い、都立高入試の申し込みが始まる今年7月までに英語スピーキングテスト導入の中止にもっていきたい、と大内氏が力強い言葉で締めくくりました。
(報告:希望のまち東京をつくる会・水口かずえ)