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宇都宮けんじブログ

イベント「北東アジアの平和共存に向けた日韓平和フォーラム」(2019年12月5日~7日)のご報告

昨年2019年12月5日から7日にかけて韓国の春川市で開催された「北東アジアの平和共存に向けた日韓平和フォーラム」(5日 レセプション、6日平和フォーラム、7日 DMZ(非武装地帯)ツアー) に、当会代表である宇都宮けんじも参加しました。

会場となった春川市は、ドラマ「冬のソナタ」のロケ地としても有名ですが、38度線で南北に分断された唯一の自治体である江原道の道庁所在地でもあります。

2015年・16年・17年に続いて4回目となる平和フォーラムの今回のコンセプトは、「日韓の友好関係は両国の市民の協力で」であり、約300名の日韓の市民が参加しました。開会式では、開催にあたり中心的な役割を担った翰林聖心大学東アジア平和研究所所長のユン・ジェソンさんと日本側の責任団体となった「日韓市民交流を進める希望連帯」代表の白石孝さんが、以下の宣言書を交わしました。

①相互の文化と歴史を学び合い、リスペクトし合う交流・協力を約束します。
②国家間の政治的な側面に左右されない市民間の平和を求める活動を目指します。
③「Local to Local,People to People」を進め、格差・貧困や環境問題などの直面する諸課題の解決を目指します。

続いて、平和共存のための「ハグパフォーマンス」も行われました。

前述したユンさんが、「両国の市民の継続的な協力によって、韓国と日本の平和を成し、ひいては世界の平和を成し遂げることを切に願います」と挨拶し、いよいよスタートしました。

「基調講演」では、延世大学名誉教授のキム・ヒョンソクさんが、「21世紀後半になると、開かれた多元的社会の必要性と可能性が世界史を動かしてくれるものと期待される」とし、「何よりも重要なのは、両国の国民が、後に続く若い人たちのために、人道主義的な『和解』と『共存』の模範を示すことである」と語りました。

前広島市長で平和首長会議議長の秋葉忠利さんは、「北東アジア非核地帯」構想や日本、韓国、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)に共通する問題である自然災害による被害に着目することでの「脱軍事思考を基盤とした国際協力」の可能性を語り、日本においては、「防衛省」を「防災省」に転換すべき時が来ているとしました。

「平和共存談話」で、ソン・ギョンリュンさん(翰林大学教授/元青瓦台(大統領府)政策室長)、イ・スフンさん(前駐日大使)、小森陽一さん(東京大学名誉教授/九条の会事務局長)、糸数慶子さん(前参議院議員)が登壇した後、8つのテーマ(①地方政府間の交流協力②市民社会での交流協力③福祉協力❲学校給食と有機農業❳④北東アジア平和共存:地政学から地経学へ⑤友好交流のためのマスコミの役割⑥脱原子力協力⑦安保分野の討論⑧韓❲DMZ❳ユネスコ文化遺産登録・日❲平和憲法❳護憲のための協力)で「分科会」が行われました。

これらのテーマの中で、宇都宮けんじも提言している「普遍的福祉」の観点からひとつ、分科会③でも話題になった「学校給食と無償化」について取り上げてみます。

韓国では、2016年の学校給食(小・中・高校)の無償化率は74.3%(うち小学校95.6%、中学校78.3% 韓国財政統計資料による)だそうで、ソウル市は、2021年から「小・中・高校すべての学校給食が無償かつオーガニック食材になる」との事です。一方、日本の無償化率は、小学校で0.6%、中学校で0.7%に過ぎません(※)1740自治体のうち、小・中学校とも無償なのは76自治体(4.4%)、どちらかのみが6自治体(0.3%)、一部無償化・一部補助の実施は424自治体(24.4%)で、1234自治体(70.9%)は未実施だそうです(文科省「平成29年度 学校給食無償化等の実施状況」による)。また、日本では、学校給食の実施状況だけをみても、中学校では学校ベースで86.6%、生徒数では79%(横浜市が未実施のため、神奈川県は44.5%)まで下がるようです(文科省「平成30年度 学校給食実施状況等調査」に基づく)。※韓国の学校給食の無償化率74.3%は学校数における比率/日本の同無償化率は児童・生徒数における比率

討論者の藤代政夫さん(前千葉県議会議員)は、「学校給食(小・中学校)の無償化には、学校給食法が負担区分を定めている事や年間約4451億円の経費が必要(2018年参院文科委での文科相答弁)なので、困難だと言っているが、100兆円の一般会計予算の0.4%がなぜ出せないのか不思議です」と語りました。

そして、宇都宮けんじは、最後の「総合討論」で、「貧困・格差・差別のない北東アジアを〜北東アジアにおける『積極的平和』の創出に向けて」と題してスピーチしました。

「平和学における『積極的平和』が、戦争の原因となる貧困や格差、差別などの社会構造に根ざす『構造的暴力』がない状態を呼ぶ(ノルウェーの社会学者ヨハン・ガルトゥング氏による)ことからすれば、北東アジアでの貧困や格差、差別をなくす運動も、北東アジアで平和を創造していく運動の一環ということになる」と述べ、日本、韓国、台湾の金融被害者団体や支援団体、弁護士、司法書士、学者などが一堂に会して、10年前から各国の多重債務問題、生活保護問題、住まいの貧困問題、非正規労働の問題、青年の貧困問題、奨学金問題、ホームレス問題などについて交流を重ねてきている「東アジア金融被害者交流集会」の取り組みを紹介し、このような貧困、格差、差別をなくす取り組みを北東アジアで広げていくことも、北東アジアの平和創出に向けた取り組みとして重要であると語りました。

最終盤に、原爆の図丸木美術館理事長の小寺隆幸さんが、丸木夫妻が描いた「原爆の図」の一部を紹介しました。人間の心のなかにある差別を描いた作品を紹介し、「私たち市民には、相互の文化と歴史を学びあい、リスペクトしあう市民同士の交流を積み上げ深めていくことが求められている。それは過去に誠実に向き合うことであるとともに、若者たちの未来をつくりだすことでもある」と語られました。そのことに象徴されるように、今回のフォーラムは、過去の戦争の産物である「日本国憲法」と「DMZ(非武装地帯)」の価値を再確認し、今後も日韓市民の継続的な交流や協力で、さらなる友好関係を築いていこうという強い想いが込められた、とても意義深いものとなりました。