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宇都宮けんじブログ
第4回希望政策フォーラム「どうする!?東京オリンピック01」
2020年 東京五輪に希望を持つな
開口一番、「2020年 東京五輪に対しては“希望を持つな”」そんな衝撃的な言葉で始まった、スポーツジャーナリスト谷口源太郎さんのお話。2014年9月20日に文京区民センターで開催された、第4回希望政策フォーラム「どうする!?東京オリンピック」の記録。
東北被災地を切り捨てた「復興オリンピック」の欺瞞。「平和の祭典」とかけ離れたIOCの内情。「国民統合」の道具とされる、森喜朗元首相率いる東京オリンピックの危うさ……。ブエノスアイレスでのIOC総会での、あの「アンダーコントロール」発言はいかにして出てきたのか。オリンピックに興味がない、では済まされない。必読の内容です。
谷口源太郎
スポーツジャーナリスト。新聞、雑誌、ラジオ、テレビにて、スポーツを社会的視点からとらえた批評を手がける。主著に、『冠スポーツの内幕 スポーツイベントを狙え』(日本経済新聞社)『日の丸とオリンピック』(文藝春秋社)。マスコミ9条の会呼びかけ人。
「2020年東京五輪に対しては“希望を持つな”」。その一言につきます。
これまでのオリンピックの中で最悪のオリンピックです。それはなぜか──。オリンピリズム、オリンピックムーブメント(オリンピック運動)の最大の目的として掲げられているのは、「人間の尊厳を大切にすること」「平和な社会を推進すること」です。ところが、IOC(国際オリンピック委員会)が今度の2020年オリンピックの開催地として東京を選んだということは、その原則をIOC自らが根底から覆したということです。
ご存じのように、アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれたIOC総会でのプレゼンテーションで、安倍総理はとんでもないウソをつきました。東電福島第一原子力発電所事故、レベル7の原発事故による放射能汚染、汚染水漏水の深刻な事態に対して、「状況は、すべてコントロールされている(under control)」と言いました。すべて制御されていると。放射能で汚染された水は海にも流されており、いまも放射能の汚染は拡大しています。これは国内外に対するまさに虚偽発言です。この一言がIOC委員たちにウケて(決め手となって)東京に決まったと報道されましたが、これは政府関係者の中でもきちんと議論された言葉ではありませんでした。
IOCと東京招致委は完全に結託しています。金額こそは、前回(2016年)の失敗した招致活動にかけた経費150億円より少し減って、今回は75億円ですが、何に使っているのか、それだけの招致活動費用をかけています。IOCの委員には旧皇族の竹田恆和(2020年東京オリンピック・パラリンピック組織委員会理事)が、メンバーとして入っています。ヨーロッパのIOC委員の中には王室関係の人がいますが、彼らというのは一般の委員には会いもしないのですが、元宮家というだけで竹田氏とは無条件に握手をするからです。これもJOCのひとつの作戦なわけです。IOC、そして各国委員の体質を調査することが必要です。あるJOC(日本オリンピック委員会)の幹部は、スイスのローザンヌに家を借りて、夫婦で1年間を過ごしました。徹底的にIOC本部に出入りをするためです。
今回のプレゼンテーションにあたり、IOC委員たちが日本(JOC)に最も強調してアドバイスしたのが、福島原発事故についてでした。そんなに簡単にはいかないと。IOCの委員たちは、英BBCが連日伝える、放射能汚染水漏出問題についての的確で厳しい報道見ていますので、福島の事故による放射能汚染がいかに深刻な状況かをわかっています。ヨーロッパでは、チェルノブイリの事故以来の原発のビッグニュースです。ですので、IOCの中には、福島原発事故に対して拒否反応が浸透しています。これはヤバいと。そこであるIOC委員が東京招致委員会関係者に、プレゼンテーションでこの問題について首相クラスがきちんとコメントしなければ、BBCは最後の最後まで追及し続けるだろう、収まらないだろうといったことを強くアドバイスしました。そのような忠告を受けて、JOCは急遽、首相官邸に、放射能汚染水漏出問題について強く打ち出してほしいと依頼。そこで官邸から会見の文案ができあがってきて、その最終原稿がサンクトペルブルクからブエノスアイレスへ向かう安倍首相に届けられ、それをそのまま安倍首相が読んだということでした。「アンダーコントロール」(放射能はコントロールされている)という一言が付け加えられて。
IOCは、福島第一原発の事故、放射能汚染問題がいかに深刻かということは十分にわかっています。それを承知のうえで見て見ぬフリをしたということです。一国の総理が言い切ったのだから大丈夫だろうと、そうIOCは済ませてしまったわけです。「オリンピックはいいものだ」といまだに思っている人がいるかもしれませんが、とんでもないです。
では、オリンピックを主催するIOCっていったい何でしょう? IOCというのは、2000年11月1日になってようやく、スイス連邦評議会がNGO(非政府組織)として承認した、ただそれだけの組織です。100年続くオリンピックの歴史の中で、たったの十数年です。しかも非営利というのはウソですよね、いまやIOCは大企業です。放送権、スポンサー権、それに、招致活動国内オリンピック委員会が中心となってするわけですが、そこからのあがりも莫大なものです。スポンサー料の何パーセントかをピンハネしています。
オリンピックの理想とする根本原則などはIOCの頭の中にはありませんし、東京招致委員会の中にもありません。福島の事故による放射能汚染は本当に深刻な事態であり、収束の目処はたっていません。こんな認識の元で招致にのめりこんでいった。一国の首相が明確なコメントを出すことにで批判的な認識をそらせ、ということで、あのパフォーマンスになった。これひとつとっても、どれほどの欺瞞の中で東京が選ばれていったかということがわかります。
では、開催地というのはどのように選ぶのでしょうか。なぜ東京に絞り込んでいったかといったら、それは経済、財政的な理由からです。IOCの委員の頭の中には、オリンピックの原則なんて、はなからありません。もしオリンピック、「人間の尊厳を大切にする社会」ということを認識するのであれば、いまの日本列島というのは、それを阻害する、大いに人間の命というものを危うくしている社会であると言えます。
福島の放射能汚染は、本当に深刻な事態です。その福島から200キロしか離れていない東京でオリンピックを開く。そんな認識もないままの招致です。最後の最後に、一国の首相が宣言することで、BBCの報道から意識をそらせる、そういう企みを受け入れる。この招致のいきさつひとつとっても、どれだけ欺瞞や偽装や虚構の中で、東京オリンピックというものが決められていったかがわかります。
オリンピックに向けて動き出しますが、その長についたのが森喜朗元首相です。天皇を中心にした「神の国」をつくると言っているような人が招致のトップ、大会組織委員会の会長で、首相の安倍にしても右翼もいいところです。憲法を改正し、戦争に向けて、いかに一歩一歩近づいていくか。その動きはとどまることがありません。明らかに東京オリンピックというのは、それに向けた国民統合のための有効な手段です。他に変えられない大きな力をそこに託して、オールジャパン体制でオリンピックにのぞむということです。
森はラグビー協会の会長でもありますが、2019年のラグビーワールドカップも日本に招致しました。(※日本での開催が決まっただけで、まだ東京と決まったわけではない!)ラグビー人口もどんどん減っていて、人気も落ちている中で、何でまたラグビーのワールドカップをわざわざ日本で開くのか。こういうビッグイベントを呼ぶことで何を考えるか。それはやはり経済、要するにハコモノづくりをきっかけにした経済です。最大の狙いは国立霞ヶ丘競技場を建て替えることです。ラグビーワールドカップの時の準決勝と決勝は、国際ラグビー協会の規定で8万人収容規模のスタジアムで開くこととされています。したがって、今ある国立競技場には8万人も入らないので、それを壊して8万人収容可能な規模のものに建て替えなければならなくなる。それが森喜朗の狙いです。
しかし森喜朗がいくら元総理だからといって、ラグビーワールドカップだけのために国立競技場を建て替えるといっても誰も納得しませんが、オリンピックのためといえば口実になる。オリンピックのメインスタジアムとして作り替えるんだと。2019年ラグビーワールドカップを成功させ、さらに翌年のオリンピックのリーダーシップを取って、オールジャパンの国民統合体制で成功させる。これが彼らが企んでいる大きな流れです。
当初の計画を見直して、経費を少しは削ったなどと言っていますが、そんな問題ではありません。このオリンピックは止めなければいけない、何がなんでもストップさせなければなりません。さもなければ、この日本列島を引っ張っていこうとする危険な大きな流れを加速させることになります。
ではどのようにして、その動きを加速させていくか。
今年はじめて、オリンピック・パラリンピックムーブメントを進めるための関連事業予算が20数億円つきました。主な事業は例えば、オリンピック・パラリンピックに出場経験のある選手が学校を訪ねて子どもたちに話をする。オリンピック選手たちを芸能人のような扱いで、どんどんいろいろなところへ派遣していく。
しかし、選手たちはオリンピックの理念を分かっているのでしょうか? そんなの知りません。学校を訪れて、子どもたちにオリンピックの理想を語れと言われても、何にもわからない。これから講習会を開いて、選手たちに改めてオリンピックの理念を教えていくということです。つまり、オリンピック選手はこれまで、オリンピックのことなんか何も知らずに、日の丸つけてがんばれって言われて、出場していただけというわけですね。
これまで、オリンピックの理念なんていうものは理解されていませんでした。そのためのムーブメントがなかったからで、それは当然のことです。この偽装や虚構に満ちたオリンピック招致、その虚偽の現実をさておいて、子どもたちにオリンピック精神を教えろということだそうです。東京都教育委員会は300校の公立小中・都立高校を「オリンピック教育推進校」と指定し、子どもたちにオリンピックの縊死や理念を教えることを決めました。しかし、どうやって教えるのでしょう。事態はこんなに深刻である。そのうえでのオリンピックって何だ? と子どもたち自らが考えることを投げかける授業はできるのか。先生たちも悩むと思います。子どもたちも動員して、老いも若きも「オールジャパン体制」で文句を言わせない雰囲気をつくる。国家統合のためのさまざまな国家主義的な直接的な活動が露骨に行われるようになると思います。
そして、その国家の目的を果たすための、資本への貢献にはすさまじいものがあります。すでに建設ラッシュは始まっています。国と資本がオリンピックを口実に手を組み、利益を追求する。その影響で一般民衆はどうなるか。人間として、尊厳を大事にして生きていくということができない、ますます生きにくい社会になっていきます。東京オリンピックは、私たちの生活・生存そのものにさらに厳しい条件を突きつけてくるのではないかと危惧しています。
ぜひ、「オリンピックはいいものだ」という幻想から抜けだし、根本的に問題を継続して検証・追究していただきたいと思います。
──IOCは日本の原発の危険性に目を瞑ったというお話でした。2020年の段階では、危険性は当然残ると思います。他にも東京も温暖化していると言われていて、夏の暑さは耐えられないほどです。アスリートは死んでしまうのではないかと本気で心配します。あるいは地震が近い将来あるかもしれません。東京で開くことの危険度というのは、そうそう目を瞑れるものではないと思いますが、IOCはそこを含めてまで無責任状態と判断していいのでしょうか?
そうですね。IOCのトーマス・バッハ会長は東京に決まってから、はじめて東京を訪れました。来日するときに、東京の招致委員会を通して何を言ったか。「何しろ日本の企業をできるだけ多く集めてくれ」ただそれだけでした。さっそく電通が動いて、100社以上の企業でバッハさんをお迎えしました。彼は大満足でした。
東京オリンピックをこれだけ多くの日本の企業がバックアップしてくれるということで。なおかつ、IOCのビジネスの世界共通の独占的権利を与える「TOPプログラム」というものがあります。これはIOCの重要な財源の一つとなっていますが、それにブリジストンが名乗りをあげたので、これでもバッハは大満足です。福島はどうなっているのか、放射能汚染はどうなっているかということになどは、一言も何の興味も示しませんでした。
イギリスの女性のスポーツ社会学者で素晴らしい方がいます。明治大学に呼ばれていらしたときに会いする機会がありました。こんな皮肉を言っていました。「あのプレゼンテーションでの“おもてなし”というのは、放射能と大地震で私たちをおもてなしをするということなのね」と、かなり痛烈に言っていました。こんな状態で果たしてヨーロッパの選手たちが東京に来たいと思うのか。これは選手たちの問題でもあります。
逆に言うと、まだ福島の放射能汚染問題ひとつとっても、世界に知られていないことはまだまだあります。
東京オリンピックに少しでも関心のある人たちに向けて、日本から発信しなくてはならないのは、この危険きわまりない深刻な事態というものが、2020年には収まっているわけはないということ。さらに深刻になっている可能性があるという情報を、発信しなくてはなりません。IOCに対しても、「こんなところでオリンピックなんかやれると思っているのか!」と突きつけていく必要があります。
国内でも、もっと議論を重ねていかないとダメです。メディアは一切タブー扱いにしていて、オリンピックにどんな問題があるのかということは、圧倒的に知られていません。その認識を共有できるような場を積極的に作っていかないといけないと思います。