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宇都宮けんじブログ
第3回希望政策フォーラム「国家戦略特区は、何を狙うか。」
国家戦略特区は、何を狙うか。あなたの暮らしが投資家のものに!?
どうなる!? 東京の暮らし!
医療制度は?
雇用が変わる?
国家戦略特区って何?
国家戦略特区によって日本はどうなる?
ウソのような本当の話!
奈須りえさん(市民シンクタンク まちづくりエンパワメント代表)と郭洋春さん(立教大学教授)をお迎えして開催された「第3回希望政策フォーラム 国家戦略特区は、何を狙うか。あなたの暮らしが投資家のものに!?」の記録です。
Part1 問題提起 「国家戦略特区とは何か?」(奈須りえ)
私は大田区で、10年ほど、昨年の夏まで区議会議員をしていました。国家戦略特区による規制緩和は2003年、小泉改革のときにスタートしましたが、その地域に大田区が設定されていましたので、以来ずっと追いかけてきました。
東京23区は地方交付税を受け取らない不交付団体で、財政が豊かだとされていますが、特別養護老人ホームは足りていませんし、待機児童も多く、その財政は区民の生活に還元されていません。国家戦略特区はTPP(環太平洋連携協定)とセットのような形で、大企業──特に外国企業──に利益が還元され、この傾向を一層強めるものです。TPPはあくまで条約なので、そこで国際的に合意した内容を国内で実施するためには法律の整備が必要ですが、そのための役割を国家戦略特区が担っていると私は思います。国家戦略特区は全国6つの地域(東京圏、関西圏、福岡市、沖縄県、新潟市、兵庫県養父市)に指定され、東京都内では23区中9区(千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、江東区、渋谷区、品川区、大田区)が指定される予定です。都のプロジェクトは、「東京発グローバル・イノベーション特区」という名前がつけられています。
東京都アジアヘッドクォーター特区HPより
既に小泉政権が構造改革特区(2003年)、菅政権が総合特区(2011年)という政策を行っていますが、その二つは事業の主体が地方自治体だったのに対し、今回は地方自治体に加えて、民間事業者も事業主体になることが可能で、より一層、企業優先の政策が行われると考えられます。
特区比較
安倍首相は特区やTPPなどの規制緩和で既得権益の岩盤を突き崩すと言っていますが、その安倍首相の言う岩盤によって守られているのは、法に守られた私たち普通の市民です。労働の規制などがなくなることで私たちの暮らしは脅かされ、最低賃金以下で働く外国人労働者がやってきては酷使されます。結局、労働者得をする者は誰もおらず、安い人件費で労働者を働かせる企業だけが得をするようなことになりかねません。
そうした労働の規制緩和などが企業から見て「うまくいった」とみなされれば、それは特区にとどまらず全国へ広がっていく可能性があります。しかもラチェット条項(いったん進められた規制緩和を逆戻りさせることを禁止する条項)によって、規制を戻すことができなくなる、後戻りのできないのがこの特区なのです。
「経済成長に国家戦略特区が用いられる意味」(郭洋春〈ヤン・ヤンチュン〉)
まず、国家戦略特区とセットとしてのTPPの話で言えば、安倍首相は農業が8兆円しか儲けていない(全体の出荷額が8兆円しかない)から切り捨てるという方向で進んでいます。しかしTPPの経済効果は3.2兆円とされていますので、差し引きマイナスです。だったらやめてほしいものです。国際的に見れば、こうした経済特区のような制度は、高雄(台湾)、深せん(中国)のように、地方のまちを都市化させていく時に導入されたのであって、東京のような巨大都市に導入するというのはおかしなことです。一極集中している東京を特区に指定するということは、集中の度合いを一層進めるものです。
中曽根政権が進め、小泉政権が推し進めたのが新自由主義的政策です。これは民間活力といった言葉で、公的、民主主義的な規制を企業にとって都合のいい形に変えていく政策です。国鉄をJRにし、郵便局も民営化し……と少しずつ進められてきましたが、今回の特区はこれをありとあらゆる分野でやろうとするものです。先日インターネットのサイトに、アメリカで盲腸の手術をしようとした人が、約500万円請求されたという話が出ていました。医療制度や健康保険制度が規制緩和されると、日本でもこういうことが起こりうるのではないかと思います。
既に米韓FTA(自由貿易協定)を結んでいる韓国では、法律が米国の大企業が活動しやすいような形に次々と変えられていっています。例えばソウル市は、学校給食への遺伝子組み換え食品の使用を条例で禁止していますが、それでは遺伝子組み換え食品を使えなくて困ると言って、アメリカ企業はその条例撤廃を要求してきています。日本に置き換えてを考えてみると、国家戦略特区で一旦認められてしまったら、特区ではない地域にまでそれが応用されてしまうのではないか。国家戦略特区を東京や大阪などの大都市で実施することで、国民を慣れさせて、ゆくゆくは韓国と同じく全国で、米企業が活動しやすいような仕組みに変えていく。本来行政が行うべきサービスまでもがビジネス化されていくということになるのではないかと思います。
「東京が『憲法番外地』に?」宇都宮けんじ
第一次安倍政権の際、彼らは「残業代ゼロ法案」を出しましたが、反撃にあってそれは潰れました。「企業が世界一活動しやすい国」というのは、企業に有利で、労働者にとっては地獄の制度を作るということです。国家戦略特区は、いわば解雇特区という形で労働者を守る規制をなくすことです。ワーキングプアーをより一層増やすことになるでしょう。
安倍首相はまた、労働者派遣法を改悪しようとしています。派遣法ではいま、専門の26業種だけが無期限で派遣雇用することが認められていますが、その26種の枠をはずして、全ての業務を対象に無期限で派遣ができるようにしようとしています。そうすると、あらゆる職場が派遣従業員ばかりになってしまいます。これは特区とは別に進めていますが、同じような規制改革として捉えることが必要です。
非正規社員は小泉首相の時代から一気に増えて、現在、働く人の3人に1人が非正規雇用となりました。非正規雇用は正社員よりもずっと収入が低く抑えられています。ワーキングプアーが1000万人を超す状況が7年連続して続いています。同じように、民間企業の公教育への参入が進むと教育の格差も広がりかねませんし、容積率の制限が緩和されることにより都心にもっと高層ビルが建てられて、中小企業や商店街は寂れていく。
そして農業も切り捨てられていきます。地方だけでなく、東京でも練馬や三多摩では農業に従事している方が多くいます。八王子で政策フォーラムを行ったとき、「農業を守らなければ三多摩は守れない」と強く訴える方がいましたが、そのとおりだと思います。安倍政権はいま、小規模農業が維持発展できるような制度ではなく、潰れていくような政策を進めようとしています。
憲法で保障された人権を守ることは、権力の側にいる者の、主権者に対する最低限の約束です。しかし憲法の文言を変えずに人権を侵害する政策を押し進めていく、それが戦略特区に他なりません。ですから、私たちはちゃんと監視していかなくてはなりません。
Part2 質疑・パネルディスカッション
司会 内田聖子(NPO法人アジア太平洋資料センター事務局長)
奈須:みなさんこんばんは。質問をいただきながら、できるだけ議論を深めていきたいと思います。
先日、虎ノ門ヒルズ──都内で2番目に大きいビル──ができましたが、ここには海外の企業やアメリカのハイアット系の高級ホテルが入っています。開発したのは森ビルですが、国家戦略特区のような形で規制緩和が進んでいけば、このようなビルをさらに建てていきたいと意気込んでいます。そしてオリンピック。2020年までの間に、国家戦略特区とオリンピックという二つの起爆剤をテコに、東京の風景、そしてお金の流れも変わるのではないかと私は危惧しています。私たちの暮らしにも強い影響があります。
─── 外資を呼び込んで得た利益は都民や国民に還元されずどこにいくのでしょうか。医療や福祉に国家がその利益を還元していないというデータは、どこを見ればわかりますか?
郭:韓国では、外資企業を呼び込むときの条件として、5年間は無税で、得た利益も自由に本国に還元してよいとなっています。それは多くのアジアでの特区で行われていますので、日本でもたぶん、同じことになると思います。利益が日本の経済や公共的なことに還元できるかというと疑わしいですね。
奈須:東京都の場合で言うと、税金は100%減税され、利子補給(企業が借り入れたお金に対する利子への補助)もある。「都民に対して還元されるの?」と訊いたら、「6年目以降は還元されるかも」と言われました。でも東京都の人口は2020年以降は減ると予測されています。それまでに稼ぐだけ稼いだら、あとは知らないというのが大方の考えだと思います。そういう意味では、還元されるかどうかは、全然保証されていません。
─── 国家戦略特区ではいま、職を持つ人も早期退職を迫られるのか? なぜ、こんな無法地帯の国家戦略特区が許されてしまうのか知りたいです。
宇都宮:早期退職を迫られるかどうかはわかりませんが、昨年〈2013年〉の労働契約法の改正で)5年以上勤めた有期雇用労働者は、無期雇用に転換することが可能になりました(無期労働契約への転換)。すると、5年で雇い止めにするというような雇用主が出てきて問題になっています。この雇用止めの問題で労働組合などを作って、闘っているところがあります。
先日、大飯原発の運転差し止めの判決が出ました。原発がなくなると電気代が高くなると言うが、多くの人の生存の問題と電気代の問題を比べるというようなことは許されないと、判決では言っています。豊かな国土に根付いた生活をしているのが国富であって、それが取り戻せないようになるようなことはおかしい、国民の基本的人権を侵害するような政策だと。いまの安倍政権自体がまさに基本的人権を無視するような政策ばかりを出していますが、これを阻止するためにはみなが声をあげていかなければならないと思っています。
─── 医療に関する多くのことが問題になっています。神奈川県の特区で、医学部以外の卒業生であっても、メディカルスクールを出れば診察を行えるようにするとか、外国語で診療することができるようにしていくと言っていますが、医師会からは反対の声はあがっていますか?
奈須:医師会は反対しています。ただ実際に、個々の医師になると判断は違うと思います。自由診療になれば経営が楽になるんじゃないかと考える医師もいます。とはいえ、医薬品メーカーなどだけが潤うだけで、必ずしも医師が儲かるわけではないといった意見もあります。
宇都宮:TPPに関しては、同じような危険があるということで医師会も反対しています。医師会の前会長が、いまはTPP国民会議の代表をされています。
─── 私たちの未来を見るために、いま韓国ではどうなっているかお聞きしたいです。
郭:今年の1月に韓国の医師会にあたる医師協会が、全国でストライキを起こしました。それは、この間進められてきた規制緩和によって、お金のある大病院や総合病院がますます膨れあがり、個人病院は潰れてしまうのではないか、企業と同じようなことが起こってしまうのではないかと危惧した反対運動です。
韓国では一昨日、統一選挙が行われました。韓国では、教育行政については別途財源を確保していて、人事権も別です。日本の教育長にあたる教育監と教育委員も直接選挙によって選ばれます。その教育監に今回、全教組(全国教職員労働組合)の進歩的な人が当選しました。いままでとは違う動きが起こっているのかなと思います。
─── 都議会の人たちはどのように考えているのでしょうか。そしてもうひとつ、東京で指定された9つの区の住民がいまからできることは何か?
奈須:残念ながら、この課題が都議会で問題になっているという話は聞いていません。特区をどんどん進めてほしいといった声のほうが多くあるようです。また区議会でも、ほとんど話題にはなっていないというのが現状です。
ただ憲法95条では、一区域(地方公共団体)に適用される法律には住民投票が必要であると定めています。その地域だけで医療保険料が上がったり、ある地域だけ解雇されやすくなるというようなことを阻止するには、住民投票を実施するのがよいのではないかと思います。
ただ、その区在住ではない人も病院で受診しますし、外からその区の企業に通勤してくる人もいます。そういう意味では、「特区」というのは意味がなく、みんなで考えないといけない問題だと思います。
内田:都の、特区を取り扱う部署に電話をして、「都民に説明するような機会については考えていますか?」と聞いたら、びっくりしていました。そんなこと考えてみたこともなかったと。行政としての説明責任のようなものも吹っ飛んでしまっているんですね。
選ばれた区の責任者にはもちろん説明をしているということですが、その区がそれぞれの住民に説明をするかどうかについては都は感知していないとのことです。私もびっくりしましたし、それを監視していく必要があると思っています。
では、最後におひとりずつ、おねがいします。
郭:東京都では9つの区だけが指定されたということは、9つの区が選ばれたとも言えますが、残りの14区については、ネガティブな意見もあります。東京都はもともとダメだしをくらって舛添さんが呼びだされて、「ちゃんとやれよ」と言われています。
東京は日本の首都ですので、「特区」となることには大きなリスクを抱えています。財政的な負担もありますし、そのための人材確保も、国でなく都が行わなくてはならない。それは相当な負担ですので、積極的ではなかった。だから、結局、引き受けたのは9つの区だけとなったわけです。東京都も一枚岩ではない。そんなにうまくいかないのではないかと思っています。
外国人ための特区と言いますが、外国企業はたいして日本に来たがっていません。人件費は高いし土地も高い、そして何より英語が通じない。日本にくる理由がありません。日本人を雇わずに英語の通じる外国人を雇うのであれば、日本の雇用は増えません。おかしいんじゃない? って、だんだんとボロが出てくるのでははないかと思います。
東京都は、やると大変だけどやらないわけにはいかないという、結構厳しい立場に置かれているのではと思います。
内田:原発が破綻するかもしれない日本に、安心して外資が来るとは思えないという声もありますね。
郭:ブラジルではサッカーワールドカップが開かれていますが、それと同時にデモが起こっています。治安は大丈夫なのかと日本では報道していますが、東京でオリンピックが開かれる2020年に、果たして原発の問題は落ち着いているのか。そうでなければ外国の人は来てくれないですよね。
でもいま、東北の復興支援よりも東京のゼネコンに、カネはつぎこまれています。東北は置いていかれています。復興もできてないのにオリンピック? 近づけば近づくほど、後回しにした問題が大きくなって、世界中から、「日本は何やってんだ?」という声が大きくなると思います。
宇都宮:東京で何がどう行われているのかは、ウォッチしなくてはなりません。都議会で取り上げてもらうことは重要です。私たちはその議論を視ていかなくてはいけない。「特区」には中央区と江東区も指定されていますが、築地の移転と開発、そして特区構想。それらをあわせて問題にすべきだと思います。
私たちはカジノの解禁・推進についても反対していますが、安倍政権はオリンピックに向けて「カジノ特区」をつくろうとしています。公営ではなく民間の業者がやろうとしていて、ラスベガスでカジノを営業している業者が虎視眈々とねらっています。
ギャンブル依存症が増えますし、犯罪なども増えていくのではないか。カジノは人の不幸の上になりたっています。どうぞ関心をもって参加してください。私たちはこういう問題を知る、情報をつかむということが必要です。
奈須:3つお話します。まず、地方分権とは何だったのか。それは、私たちが身近な自治体に自治権を与えるということではなく、企業にそれを与えようとしたということだと思います。これから行われるのは権限の委譲です。これまでは行政が決めたことを民間に委託するという規制緩和だったのが、インフラをどうするのかといった権限まで、民間に移譲されるところに進もうとしています。
東京ではいろいろな開発が行われようとしています。リーマンショック以来、お金の行き場がわからなくなっていて、マネーゲームのネタが必要なんですね。それが再開発だったりオリンピックだったりするわけです。確実に儲かるような仕組み──都心の一等地で、絶対に投資したら儲かる──をつくっています。期間限定で5年間、東京で儲けるだけ儲けて、その後、日本、東京に再投資はないでしょう。
これ以上減税を続けたら日本は疲弊します。統治機構も疲弊し大きく崩れ去っています。住民の権利がないに等しい状態です。住民自治とか民主主義とは何なのかということを確認していかなければならないと思います。
内田:情報がたくさんありすぎてわかったようでわからないという感じもあると思いますが、どうぞ継続してこの問題を一緒にに考えていただきたいと思います。本日はありがとうございました。