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宇都宮けんじブログ

憲法記念日に寄せて

1.9条改憲の発議を許さない運動を!

 今年の憲法記念日で施行から71年となる日本国憲法は、今最大の危機を迎えています。森友・加計学園問題、自衛隊の南スーダン・イラク派遣日報問題、財務省事務次官のセクハラ問題などで内閣支持率を大幅に低下させながらも、安倍首相が憲法改正に執念を燃やしているからです。

 3月25日に行われた自民党大会では、(1)自衛隊の明記、(2)教育の無償化・充実強化、(3)緊急事態対応、(4)参議院の合区解消 の4項目の憲法改正を目指す方針が決定されています。

 安倍首相が目指す憲法改正の本丸は、憲法9条に自衛隊の存在を明記する憲法改正ですが、これは単なる現状追認ではなく、安保法制の制定(2015年9月19日)と施行(2016年3月29日)を受けて、日本が攻撃されていなくても一定の条件のもとで海外での武力行使を認める、すなわち集団的自衛権の行使ができる自衛隊を合憲化するということです。また、自衛隊の存在を憲法で明記することは、陸海空軍その他の戦力の不保持と国の交戦権を否認した憲法9条2項を実質的に空文化・死文化させることになります。

 2019年は現天皇の退位、新天皇の即位、統一地方選挙、参院選などが予定されているため、今年の通常国会か臨時国会での改憲の発議を目指すと考えられています。したがって、安倍政権に改憲の発議を許すか否かが今年の最大の政治的争点です。

 改憲勢力が衆参とも3分の2を超えていますが、改憲政党がめざす改憲内容はバラバラであり、必ずしも一致していません。また、参院では、改憲発議のためには公明党の協力が必要となりますが、憲法9条に自衛隊の存在を明記する改憲については公明党は今のところ消極的であると伝えられています。

 したがって、9条改憲反対運動の盛り上がりや国民世論の動向によって、国会における改憲の発議を阻止できる可能性も十分あり得る状況です。現在市民グループ「安保9条改憲NO! 全国市民アクション」が呼びかけている「3000万署名」運動の広がりも、国会の発議を許すか否かに大きな影響を与えることになると考えられます。

2.基本的人権を社会に定着させる運動を!〜子どものいじめ問題から考える〜

 ところで、立憲主義の理念とは「国民・市民の自由や人権を守るため、国家権力を憲法によって制限する」という考え方です。

 また近代国家が採用している立法、司法、行政を分立させる三権分立制度は、国民・市民の自由や人権を守るための制度です。三権が一権に統一されると独裁権力となり、国民・市民の自由や人権が侵害される危険性が強くなるからです。

 さらに、日本国憲法の三つの原理、「基本的人権尊重原理」「国民主権原理」「恒久平和主義原理」の中で中心的価値を持つのは「基本的人権尊重原理」です。基本的人権は、人類の歴史的経験から独裁国家や専制国家、軍事国家では十分に保障されません。基本的人権が十分に保障される社会は、国民主権の民主主義国家であるので、「国民主権原理」が出てきます。また、戦争は最大の人権侵害であるので「基本的人権尊重原理」を貫けば、「恒久平和主義原理」が出てきます。

 憲法が最高法規といわれるのは基本的人権を守る法規であるからです。このように大切な基本的人権なのですが、子どものいじめ問題の多発、生活保護利用者に対するバッシング、非正規労働者の差別、男女間の賃金差別、長時間労働による過労死や過労自死の多発、労働基準法が守られないブラック企業やブラックバイトの横行、職場でのパワハラ、セクハラの横行、在日外国人差別やヘイトスピーチの横行、障がい者差別、性的マイノリティ差別などを考えれば、日本社会は憲法が保障する基本的人権が定着した社会とはとても言えないのが現状です。

 我が国で多発している子どものいじめの問題も、人権問題だととらえるべきです。子どものいじめで思い出すのは、原発事故で避難してきた子どもに対するいじめ問題です。

 原発事故で福島から横浜市に避難していた男子中学生(当時13歳)が、転入先の市立小学校でいじめを受けて不登校になった問題について、2016年11月代理人の弁護士が記者会見をして生徒の手記を公表しました。男子生徒は、原発事故で賠償金をもらっているだろうなどと言い掛かりをつけられて金銭を要求されたり、ばい菌と呼ばれ「放射能の影響ではないか」と不安になったりしたということです。このようないじめは小学2年から5年まで続きましたが、男子生徒の手記には「いままでなんかいも死のうとおもった。でも、しんさいでいっぱい死んだからつらいけどぼくはいきるときめた」と書かれていました。

 このようないじめを本当になくそうと思えば、学校の中で一人ひとりの生徒が人間として尊重される、一人ひとりの生徒の尊厳や基本的人権を尊重する人権教育の徹底が不可欠だと思います。

 一人ひとりの生徒の尊厳や基本的人権を尊重し、対話を重視した民主主義教育がおこなわれているデンマークでは、日本のような陰湿ないじめはほとんどないといわれています。デンマークで、日本のような深刻ないじめや不登校がほとんどない理由には、
(1)デンマークでは歴史的に自由、平等、共生、連帯という理念がごく自然に国民性として根付いていること
(2)教育システムに多様な選択肢があり、日本のように教育の方向性が均質化・画一化されていないこと
(3)進路に関して子どもがどれを選ぶかは自己決定に委ねられており、親の価値観の押しつけがないこと
(4)幼児教育では遊びが重視され、集団になじむことや人間関係の形成に重点が置かれていること
(5)どの学校にも生徒代表が加わる理事会組織があり、学校運営に生徒の意見が十分に反映されていること
などが上げられます。

 いじめをなくすためには、わが国の学校でもデンマークにならった徹底した人権教育と民主主義教育が求められていると思います。

2018.5.3 希望のまち東京をつくる会 代表 宇都宮けんじ