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宇都宮けんじブログ

シンポジウム「築地市場の行方 第二弾 築地を守り豊洲もいかす」(2018年6月2日)のご報告

はじめに

6月2日、東京、御茶ノ水にある明治大学で、希望のまち東京をつくる会主催のシンポジウム「築地市場の行方 第二弾 築地を守り豊洲もいかす」が行われました。本シンポジウムは、昨年8月に行われ大反響を呼んだシンポジウムの第二弾。今回も会場はほぼ満席、多くの方がこの問題に関心を寄せておられることが伝わりました。当日の模様を、希望のまち東京をつくる会スタッフがレポートします。当日のプログラムは以下の通りです。

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巻頭言
「築地市場移転問題、激動の1年で明確に見えてきたこと」
宇都宮健児(弁護士・元日弁連会長・希望のまち東京をつくる会代表)
第一部
「卸売市場法改正で日本の食と地域経済はどうなる?!」
菅原邦昭(仙台市中央卸売市場水産物卸協同組合事務局長)
対談「卸売市場法に見る本当の資本主義とは」 菅原邦昭/中澤誠(東京中央市場労働組合執行委員長)
第二部
「築地を守り、豊洲を生かす! 〜失敗建築豊洲市場をいかに再生するか」
森山高至(建築エコノミスト)
対談「山積する豊洲市場の<問題点>を再検証」 森山高至/ 中澤誠
第三部  トークセッション
「<みんなの市場>築地を未来へつなぐために」

 

豊洲土壌汚染の「無害化方針」の撤回は都民に対する裏切り

冒頭に、希望のまち東京をつくる会代表の宇都宮けんじが登壇、「築地市場移転問題、激動の一年で明確に見えてきたこと」と題し、この1年の築地市場移転問題におけるトピックを整理しました。

小池都知事は、昨年の東京都議選直前の6月、「築地を守り、豊洲をいかす」という基本方針を発表し、市場は豊洲に一旦移転、5年後をめどに食のテーマパークとして再開発を行い豊洲と築地の双方に市場機能を持たせる、と語っています。しかしその後も問題は続出。特に、調査そのものの不備も多く指摘されている、未解決のままの豊洲市場の汚染問題に関しては、なんと、都民に約束していた「地下水などの有害物質を無害化する」という方針を昨年7月の都関係局長会議で撤回してしまいました。

「この無害化方針の撤回に関しては、あまりメディアでも大きく取りあげられないが、これは非常に重要な問題。2011年の都議会では、都の市場長が、市場を『無害化された安全な状態』にするということについて、土壌汚染対策を確実に行う、東京ガス工場由来の汚染物質を全て除去する、土壌地下水の汚染も環境基準以下にする、ということだと答弁している。この答弁は都議会に対する約束であり、築地市場関係者、都民に対する約束です。それを都議選後にかなぐりすててしまった」(宇都宮)

続けて、汚染問題に長く取り組んできた一級建築士の水谷和子さんの調査にも触れ、豊洲市場の未解決の土壌汚染問題を整理。また、この4月に行われた築地おかみさん会による、築地で働く人々へのアンケート結果にも触れながら、現場で働く人々の声をほとんど取り入れずに造られてしまった豊洲新市場の設備や流通に関する問題点にも触れました。最後に、本シンポジウムのもうひとつの重要なテーマである卸売市場法改正案についても言及。同案は現在行われようとしている強引ともいえる豊洲市場移転と連動していると指摘しました。

 

築地を守ることは地域経済を守ること

続いて第一部がスタート。仙台市中央卸売市場水産物卸協同組合事務局長の菅原邦昭さんが登壇。今から100年前の「米騒動」(1918年)をきっかけに生まれた卸売市場法が、生産者と消費者を守り、第三者による不当な価格形成を許さない、需要と供給のバランスで価格を決める極めて民主主義的なシステムであるということを明快にわかりやすく指摘しました。

「卸売市場法はあの時代においても世界の最先端を行く優れた価格形成システムでした。大量に作って売れば儲かる、というものではない。多く作りすぎれば余って腐って捨てるしかなくなるし、少なければ、一部の人だけが儲かるだけ。需要と供給のバランスが崩れれば、生産者の体制は破壊されてしまいます。多種多様な食べ物が適正価格でやりとりされる日本の食文化を守ってきたのは、卸売市場法。これを骨抜きにしてしまえば、日本の食糧安全保障は崩壊する。築地を守ることは地域経済を守ることであり、全国の卸売制度を守ることなんです」(菅原さん)

第一部後半では、東京中央市場労働組合執行委員長の中澤誠さんも登壇し、卸売市場法改正までに至る様々な問題点を整理しました。生産者から良い商品を買い付けてできるだけ高く売ろうとする卸と、その商品を消費者のためにできるだけ安く買い付けようとする仲卸。卸売市場法が守ってきた、「卸—仲卸」のシステムは、生産者と消費者両方を守る非常に優れたシステムでした。それが今回の「改正」で仲卸が排除されてしまえば、どうなるのか。大資本である大手スーパー、外資系企業が圧倒的に強い立場になり、生産者は買いたたかれ、個人商店は潰れ、地域経済も破壊されていくことは間違いありません。既に、過去2回の卸売市場法「改正」でそれらは進んでしまっているのですが、今回の改正はその流れにとどめを刺すようなことにもなりかねません。

「海外の大手資本カルフールが日本から撤退したときの理由は、『生鮮食品のアイテムの多さについていけない』というものだった。日本の市場は多様性を確保しながら発展してきた。アイテムを作ることが卸売市場と仲卸の仕事です。今回の改正案を通すわけにはいかない、多くの人に声をあげてもらいたい」(中澤さん)

 

豊洲市場はオリンピックメディアセンターに向いている

 

第二部では、建築エコノミストの森山孝至さんが登壇、「失敗建築豊洲市場をいかに再生するか」という刺激的なテーマで抱腹絶倒のトークを繰り広げました。既に指摘されている物流の問題点、未解決の汚染問題、建築上の問題点などを挙げ、豊洲市場を見かけだけ立派だが中身のないコンピューターに例える指摘に場内は爆笑。しかし、続いて森山さんが、豊洲市場内のターレの試験走行の動画を上映すると、場内からは怒りと呆れが入り交じったような声が多くあがりました。水産卸売場から仲卸売場が扇状に配置され、物流のターレが滞らない築地市場と、それらが一般道路で分断されているだけではなく、フロアでも分断されている豊洲市場。水産卸売場から仲卸売場までに商品を運ぶ時間は、築地に比べると6倍。生鮮食品を扱う現場としては非常に大きなマイナスであることも指摘されました。

後半は、再び中澤誠さんが壇上に合流。使えない豊洲市場を「どう生かすか」に視点を移し、「豊洲をオリンピックのメディアセンターに!」とアピール。オリンピック終了後は、ロンドンオリンピックメディアセンターがその後メディア系企業の拠点となった例に倣い、豊洲をメディア産業の拠点として生まれ変わらせよ、と結びました。(当日の森山さんの発表は、森山さんのブログに資料と共に掲載されていますので、詳細はそちらをご覧下さい)

 

豊洲市場の問題点を広く発信していくことが重要

第三部では、登壇者全員が壇上にのぼり、さらに、会場にいらしていた、豊洲市場の土壌汚染問題の専門家、水谷和子さん、そして築地で働く女性たちの会「築地女将さんの会」のみなさんも登壇。議論はさらにヒートアップしました。

「今回の話で一番おかしいのは、仲卸業者が、事実上の立ち退きになっているということ。立ち退きさせられるのに自腹で引っ越しさせられている。こんなおかしい話はない。法的に見て、移転をするときに問題になるのは、我々が持っているはずの営業権が放棄させられてしまうということ。ですから、僕たちは自分たちの営業権を主張する権利がある」(中澤さん)

「私たちは諦めずに、今日発信されていた豊洲市場の問題点を発信していかなくてはならない。一番問題なのは、築地のブランドを支えているのは、築地市場で働いている人たちなのに、その人たちがまったく移転に納得していない、そして東京都はそれを説得する努力もしていない。それをもっと訴えていかなければならない。世論にアピールするひとつの手段として、築地仲卸のみなさんや、東京都の消費者を原告とする移転差し止め裁判についても準備しています。」(宇都宮)

都の新市場建設協議会は、昨年12月、豊洲市場移転日を2018年10月11日に決定しました。しかしその後も土壌汚染、流通、建築の不備、環状第2号線計画遅延、千客万来施設交渉の打ち切りなど、次から次へと問題は噴出しています。このままではどう考えても移転は不可能ではないか。会場からもそのような声が多く上がっていました。

 

会場からの質疑応答も多岐に渡り、議論は尽きず盛り上がるばかりでしたが、残念ながらタイムリミット。5時間近くにもなる長丁場のシンポジウムでしたが、途中退場の方はほとんどおられず、会場を後にする方々が口々に「おもしろかったね〜」とおっしゃっているのが非常に印象的でした。

 

当日のシンポジウムの模様は、「チームうつけん」のツイキャス録画で見ることができます。

https://twitcasting.tv/teamutsuken/movie/468549162

https://twitcasting.tv/teamutsuken/movie/468580722