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宇都宮けんじブログ

築地市場の豊洲市場移転問題について

 小池百合子東京都知事は本年7月31日、「安全であり、安心して利用いただけることをお伝えしたい」と豊洲市場に関する安全宣言を行った。これを受けて、東京都は、8月1日、豊洲市場について斎藤健農林水産大臣に認可申請を行い、9月10日、斎藤健農林水産大臣はこれを認可した。
 東京都は、農林水産大臣の認可を受け、10月11日の開場に向けて豊洲市場への移転を強行しようとしている。しかしながら、築地市場の豊洲市場への移転については、以下に述べるような大きな問題が残されている。

1.第1の問題は、土壌汚染問題が解決されておらず、「食の安全・安心」が確保されていないことである。
2010年3月の都議会で可決された中央卸売市場予算案の付帯決議では、豊洲市場について「無害化された安全な状態での開場を可能とすること」と記されている。
 また、2011年3月の都議会では、当時の岡田至中央卸売市場長が「無害化」の定義について、「技術会議により有効性が確認された(盛り土などの)土壌汚染対策を確実に行うことで、操業に由来いたします汚染物質がすべて除去、浄化され、土壌はもちろん、地下水中の汚染も環境基準以下になることであると考えています」と答弁している。すなわち、①土壌汚染対策の確実な実施②東京ガス工場操業由来の汚染物質の完全な除去・浄化③土壌、地下水の汚染も環境基準以下にする、といういわゆる「無害化3条件」を明確にしたのである。豊洲市場の「無害化3条件」の履行は、東京都の市場関係者や都民に対する重大な約束である。
 ところが、現状は、東京ガス工場操業由来の汚染物質は完全に除去・浄化されておらず、いまだに環境基準170倍のベンゼンが検出されるなど、土壌・地下水の汚染が環境基準以下になっていない。
 東京都が行った土壌汚染対策の追加工事である地下空間床面のコンクリート敷設は、時間がたてばコンクリートがヒビ割れを起こすなど土壌汚染対策としては極めて不十分・不完全な対策である。
 また、地下水管理システムも不十分、不完全なままである。豊洲市場に汚染物質が地中に残っており、地上に影響を与えないようにするためには地下水位を低く保つことが必要となるが、地下水の水位も3分の1の地点で目標の海抜1.8メートルを達成できていない。このため、地中の汚染物質が地上に悪影響を及ぼす可能性が高まっている。
 さらに、2011年3月11日に発生した東日本大震災の際は、築地市場は地盤が堅固なため何らの被害も発生しなかったが、豊洲市場用地では液状化現象が生じ、噴砂(砂の噴出)が108か所で発生している。今後30年以内に70%の確率で発生するといわれている首都直下型地震が起これば、豊洲市場では液状化現象により地中の汚染物質が地上に噴出する危険性があるなど、市場としての機能を果たせなくなる可能性が大である。最近でも、東京都は本年9月11日になって、豊洲市場の敷地で幅約10メートル、段差約5センチのひび割れが見つかったと発表している。

2.第2の問題は、多くの仲卸業者らが豊洲市場への移転の中止・凍結を求めていることである。
 築地で働く仲卸業者は、長年培った「目利き」を生かした「セリ取引」を行い、品質を競争条件として適正な価格形成を行うことによって、農漁業者など生産者と八百屋・魚屋・飲食店など商店街・地域経済、消費者を守ってきた。
 仲卸業者の「目利き」を生かした「セリ取引」が「築地ブランド」を支えてきたのであり、築地市場が外国人が訪れる東京観光名所となってきたのも、仲卸業者の存在なくして考えられないことである。豊洲市場は、築地市場で働く仲卸業者の意見を聞いて設計されていないため、極めて使い勝手が悪く、現時点でも交通アクセスが悪い、駐車場が足りない、床積載荷重問題で築地で使っているフォークリフトが使えないなど問題が山積みしている状態である。
 このため、多くの仲卸業者らが豊洲市場への移転には消極的であり、中には東京都が豊洲市場への移転を強行するのであれば、廃業したり、廃業を考えざるを得ないという仲卸業者も多数存在する。
 仲卸業者は中小零細の業者が多いのであるが、仲卸業者の下で働く労働者も存在するので、もし東京都が豊洲市場への移転を強行すれば、多くの仲卸業者が廃業に追い込まれ、仲卸業者の下で働く労働者も働く場所を失うことになる。
 築地市場から豊洲市場への移転に反対する築地で働く女性たちでつくっている「築地女将さん会」が2018年3月下旬、築地市場の水産仲卸業者535業者にアンケート用紙を配布してアンケート調査を行ったところ、261業者(48.6%)から回答があった。
 回答内容は、東京都が10月11日豊洲市場開場を決定したことについては、「あまり納得していない」82業者(31.4%)、「全く納得していない」128業者(49.0%)で、納得していない業者が8割を占めている。また、このうち移転計画自体を問う質問では、「今からでも中止するべき」が82業者(31.4%)、「凍結して話し合うべき」が101業者(38.7%)で、豊洲市場への移転の「中止か凍結」を求める業者が183業者で全体の7割に上っている。さらに、東京都による土壌汚染対策を信頼しているか聞いたところ、「あまり信用していない」81業者(31.0%)、「全く信頼していない」159業者(60.9%)で、信頼していない業者が9割を超えている。東京都が現在豊洲で行っている追加土壌汚染対策工事については、122業者(46.7%)が「全く納得できない」、70業者(26.8%)が「とても納得できない」と答えており、全体の8割が納得できないと答えている。また、豊洲市場で心配すること(複数回答)は、「交通アクセス」が212業者(81.2%)と最多で、「土壌汚染」(196業者、75.1%)、「お客が来てくれるか不安」194業者(74.3%)、「駐車場が不足」175業者(67.0%)、「経営持続性」156業者(59.8%)などと続いている。さらに、「本当のところ築地と豊洲、どちらで商売をしたいですか?」という質問に対しては、「当然築地」が158業者(60.5%)、「できれば築地」が84業者(32.2%)で築地を選んだ仲卸業者が9割を超えている。

3.第3の問題は、仲卸業者の営業権が侵害されているとともに、人格権が侵害される危険性が大きいことである。
 仲卸業者は、東京都知事の許可を受けて仲卸業を営んでおり、また長年にわたり築いてきた信用や名声に基づく“暖簾”があるので、営業権を有する。営業権は財産権の一種であるが、憲法29条は、財産権が侵害され損害が生じた場合は必ずこれを補償しなければならない旨定めている。
 ところが東京都は、築地市場の豊洲市場への移転に関し、仲卸業者の意向を全く聞いていないばかりか、営業権の侵害に対しても何らの補償も行っていない。また、土壌汚染対策が不十分な豊洲市場に移転すれば、食の安全・安心が確保できず、消費者の不安も大きくなり、仲卸業者にとって営業上の大打撃となり、仲卸業を継続していくことは困難となる。
 また、前述したとおり豊洲市場の土壌汚染問題は全く解決されておらず、地下水などから環境基準を大幅に超えるベンゼン、シアン、ヒ素が検出されている。いまだに汚染物質が多く存在する豊洲市場に移転すれば、今後恒常的に豊洲市場で働くことになる仲卸業者は健康が蝕まれ、身体・生命の安全が害され人格権が侵害される危険性が大である。

4.以上築地市場の豊洲市場移転に関しては、多くの問題が未解決のまま残されており、これらの問題が解決されない限り、東京都は築地市場の豊洲市場への移転を中止すべきである。

2018.9.14 希望のまち東京をつくる会 代表 宇都宮けんじ