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宇都宮けんじブログ

築地市場の豊洲市場への移転差止訴訟と仮の差止申立ての概要について

0.本文章について
 この文章は、現在当会代表の宇都宮けんじが団長を務める訴訟案件、すなわち築地市場の豊洲市場への移転差止訴訟と仮の差止申立てについて、概要を述べたものです。経緯としましては、当会に、当該訴訟・裁判についての問い合わせをいただいたため、それにご返事するため、宇都宮が概要をまとめたものです。
 関連資料をすべて公開するのではなくあくまで概要であるということを踏まえて、当会といたしましては、お問い合わせいただいた方に個別のご返信の形を取るだけでなく、現在築地市場を守り抜くために奮闘されている方々をはじめ、都民を含む築地市場に関わるすべての方にご覧いただくために、当会のブログに掲載をすることといたしました。下記、1節以降が宇都宮によって作成された概要です。

1.豊洲市場への移転が強行されようとしている。
 小池百合子都知事は本年7月31日豊洲市場の安全宣言を行い、これを受けて東京都は8月1日豊洲市場について齋藤健農林水産大臣に認可申請を行い、齋藤農林水産大臣は9月10日これを認可した。農林水産大臣の認可を受け、東京都は10月11日の豊洲市場の開場に向けて、豊洲市場への移転を強行しようとしている。

2.本件訴訟及び申立ての当事者
 本件差止訴訟及び仮の差止申立ては、築地市場で事業を営む仲卸業者や関連事業者及びその家族(以下「仲卸業者ら」という)56名が原告又は申立人となり、東京都を被告又は相手方として、豊洲市場への移転の差止めを求める訴訟と仮の差止め申立てを行うものである。

3.豊洲市場の土壌汚染問題は解決されておらず、食の安全・安心は確保されていないこと。
 東京都は、これまで豊洲市場への移転にあたっては、①土壌汚染対策の確実な実施、②東京ガス工場操業由来の汚染物質の完全な除去・浄化、③土壌、地下水の汚染も環境基準以下にする、といういわゆる「無害化3条件」の実施を市場関係者や都民に約束してきていた。
 ところが、最近でも本年6月の地下水調査では、土壌汚染対策後最大となる環境基準170倍のベンゼンが検出され、地下に深刻な汚染物質が残っていることが明らかとなっている。また検出されてはいけない猛毒のシアンが23ヶ所中17ヶ所で検出されている。
 さらに、海抜1.8メートル以下で維持管理するとした地下水位は観測井戸33ヶ所中17ヶ所で1.8メートルを超える水位が測定されている。うち8ヶ所では当面の目標とした海抜2.0メートルも達成できていない。
 したがって、小池百合子都知事の安全宣言は全く信頼できないものである。
 2011年3月11日に発生した東日本大震災の際は、築地市場は地盤が堅固なため何らの被害も発生しなかったが、豊洲市場用地では液状化現象が生じ、噴砂(砂の噴出)が108か所で発生している。今後30年以内に70%の確率で発生するといわれている首都直下型地震が起これば、豊洲市場では液状化現象により地中の汚染物質が地上に噴出する危険性があるなど、市場としての機能を果たせなくなる可能性がある。最近でも、東京都は本年9月11日になって、豊洲市場の敷地で幅約10メートル、段差約5センチのひび割れが見つかったと発表している。

4.多くの仲卸業者らが豊洲市場の移転の中止・凍結を求めていること。
 築地で働く仲卸業者は、長年培った「目利き」を生かした「セリ取引」を行い、品質を競争条件として適正な価格形成を行うことによって、農漁業者など生産者と八百屋・魚屋・飲食店など商店街・地域経済、消費者を守ってきた。
 仲卸業者の「目利き」を生かした「セリ取引」が「築地ブランド」を支えてきたのであり、築地市場が外国人が訪れる東京観光名所となってきたのも、仲卸業者の存在なくして考えられないことである。
 ところが、豊洲市場は土壌汚染問題が解決されていないことから生鮮食品を取り扱う市場としては不適切な場所である上に、豊洲市場の建物が築地市場で働く仲卸業者の意見を聞いて設計されていないため、極めて使い勝手が悪く、現時点でも交通アクセスが悪い、駐車場が足りない、床積載荷重問題で築地市場で使っているフォークリフトが使えないなど問題が山積みの状態である。
 このため、多くの仲卸業者らが豊洲市場への移転には消極的であり、中には東京都が豊洲市場への移転を強行するのであれば、廃業したり、あるいは廃業を考えざるを得ないという仲卸業者も多数存在している。
 「築地女将さん会」が本年3月下旬、築地市場への水産仲卸業者535業者にアンケート用紙を配布してアンケート調査を行ったところ、261業者(48.6%)から回答があり、全体の7割の業者が豊洲市場への移転の「中止か凍結」を求めている。

5.原告(申立人)仲卸業者らの人格権に基づく豊洲市場への移転の差止め請求
 個人の生命・身体・精神及び生活に関する利益は各人の人格に本質的なものであり、その総体が人格権である。人格権は憲法上の権利である(憲法13条、25条)。
 前述したとおり、東京都は市場関係者や都民に約束してきた豊洲市場の「無害化3条件」を全く履行していないため、豊洲市場の土壌汚染問題は全く解決されておらず、食の安全・安心も確保されていない。
 このような豊洲市場に移転すれば、消費者の不安も大きくなり、原告(申立人)らの営業は大打撃を受け、事業を継続していくことが困難となり、生活が脅かされることになる。また、いまだに地下水などから環境基準を大幅に超えるベンゼン、シアン、ヒ素が検出されており、地中に汚染物質が多く存在する豊洲市場に移転すれば、日常的に豊洲市場で働くことになる原告(申立人)仲卸業者らは健康が蝕まれ、身体・生命の安全が害される危険性がきわめて大きいと言える。
 したがって、豊洲市場への移転は原告(申立人)仲卸業者らの生命・身体・精神及び生活に関する利益すなわち人格権が侵害される危険性がきわめて大きいと言えるので、原告(申立人)仲卸業者らは人格権に基づいて豊洲市場への移転を差止めと仮の差止めを求めて本件訴訟と申立てを行った次第である。
 仮の差止め申立ては、東京都が10月11日に豊洲市場への移転を強行しようとしているため、本案訴訟の判決を待っていては償うことができない重大な損害が生じるため、豊洲市場への移転の仮の差止めを求めて、申立てを行ったものである。

2018.9.19 豊洲市場移転差止弁護団 団長 弁護士 宇都宮けんじ