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宇都宮けんじブログ

反貧困全国集会2019(2019年2月16日)の参加者レポート

宇都宮けんじが代表世話人を務める反貧困ネットワーク全国集会が、2月16日に行われました。少し間があいてしまいましたが、その様子を当会スタッフSがレポートします。

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2009年の年越し派遣村設立から10年が経ちました。2009年当時、私はポスティングの仕事をしていました。子どものころから空気が読めず、他人が想定するような「普通」のコミュニケーションができないため、仕事で怒られてはキレて辞める、クビになる、というようなことを繰り返しており、やっとたどり着いたのがポスティングの仕事だったのです。 昔はそれでも最低限の生活ができるほどは稼げたのですが、10数年前からどんどん条件が悪くなり、生活できなくなりました。次第に周囲が自分の悪口を言っている、見張られている、というような幻覚も出てくるようになり、精神科を受診したところ、きちんと診断され、障害者手帳を受け取り、障害年金や医療費の補助などを受けることができるようになりました。これらの公的支援がなかったら、私はホームレスになるしかなかったでしょう。このような体験から貧困問題に強く関心を持つようになりました。

当日は、二つの分科会が行われ、そのどちらも会場は満員。
分科会1のテーマは「生活保護基準引き下げ、社会保障切り捨てに、現場から抗する。現場から変える」で、司会は反貧困ネットワーク世話人の白石孝さん、基調調報告を田川 英信さん(生活保護問題対策会議)パネラーとして西田 えみこさん(1型糖尿病患者障害年金訴訟原告)佐藤和宏さん(首都圏青年ユニオン)、安藤 周平さん(ワーカーズコープ:生活困窮者自立支援事業担当職員)が登壇しました。
分科会2は、「年越し派遣村から10年、自己責任社会はどう変わったか」をテーマに、司会を労働運動活動家の河添誠さんが務め、パネラーには猪股正さん(弁護士)龍井葉二さん(元連合非正規センター) 、和久井みちるさん(元生活保護利用者)、雨宮処凛さん(反貧困ネットワーク世話人) が登壇。その後の全体会「垣根を越えて、つながって現場から変えていく」 では、反貧困ネットワーク世話人で作家の雨宮処凛さんを司会に、各地域の反貧困ネットワークと課題別当事者や団体がリレートークをし、最後に宇都宮けんじがまとめと集会宣言をしました。

二つの分科会と全体会は盛りだくさんで、様々な現場から報告されるこの10年の貧困問題の深刻化には非常にリアリティがありました。現在の日本は6.4人に一人が貧困という状況、これは先進国の中では高い貧困率で、かつ年々上昇しているそうです。
2007年から生保を受け、その後当事者として多く発言されている元生活保護利用者の和久井みちるさんは、「生保が必要な人は、金銭的な困窮だけでなく、複合的な問題を抱えている事が多い。鬱や持病など、心と身体のサポートが必要だと思う」と述べ、2012年の片山さつき議員による、芸能人の母親の生活保護受給に対するバッシング発言などの例を出しました。当時片山さつき氏は、派遣村に対して「もともと路上にいた人も混じっている」などの心ない発言をしていました。片山氏の「派遣切りにあった人はまだ働いていた人たちだから支援の対象にしても良いが、もともと路上にいた人たちはなまけているのだから支援する必要はない」という考え方に関しては、私自身も強い違和感がありました。
路上生活にならざるを得ない人たちはなまけているのではなく、軽度の知的障害や発達障害の人が多く、家庭や学校でのいじめから人との関わりが苦手になって、社会から外れてしまった人たちが多いのです。私自身が公的援助がなければいつ路上生活者になってもおかしくなかった人間だからこそ、そのように強く思います。

宇都宮けんじも、まとめと集会宣言の中で、この12年連続で、年間収入が200万円以下の人口が1000万人を超えたことを指摘しました。にもかかわらず、自公政権は、生保、住宅扶助、冬季加算、医療、年金、介護、全ての分野の福祉を削減し続けている事実があります。この問題をきちんと可視化して伝えていかなければならないと述べました。そして反貧困ネットワークの強みは、「支援者や研究者中心の集会でなく当事者や支援現場で当事者とともに実践者が参加し自ら声をあげていること」だと述べ、「なによりも当事者と共にある運動をネットワークをつかって広げなくてはならない」と訴えました。

「自己責任」という言葉の背景にあるものは、弱肉強食を肯とする思想だと私は考えています。競争に敗れたものは死んでも良い、というのが突き詰めたところにあります。それを是とする人の言い分は大抵、勝つ人は努力した、負ける人は努力しなかったから当然、というものです。しかし、努力だけでは補えない心身の障碍や、育った環境の不利など、そこに疑問を呈する論題は数限りなくあります。
反貧困ネットワークの皆さんは、人間の価値は「生産性」の有無や「自己責任」を果たしているかなどの条件付きのものではなく、無条件に肯定されるものであると宣言しています。私もその宣言に強く賛同します。

私の友人の職場にも、発達障害があり、まじめな人でしたがミスが多く、仕事が長続きしないMさんという方がいました。友人はMさんを心配し、生活保護利用ができるようサポートをしたりしていました。その後Mさんは地方に移住され、新しい働き口を見つけたそうですが、新しい場所で慣れない仕事が続くか心配で、私が反貧困ネットワークの弁護士の水谷さんの連絡先を友人に教えたところ、相談に乗ってくださり、もしもMさんがこの先困難な状況になった場合は、いつでもその土地のネットワークの人に連絡を取り支援体制を作りましょうと言ってくださったそうです。ネットワークの大切さ、そしてそれに関わる方々の暖かい思いを実感したできごとでした。