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宇都宮けんじブログ

「みんなで話そう、考えよう!原発事故避難者を追いつめる「自立」の強制 ―住まいから見る事故8年目の現実―」(2019年3月1日)のご報告

 3月1日(金)、「原発事故避難者から住まいを奪うな2019実行委員会」の主催・「希望のまち東京をつくる会」と「避難の協同センター」の共催で「みんなで話そう、考えよう! 原発事故避難者を追いつめる「自立」の強制 ―住まいから見る事故8年目の現実―」というトークイベントが、高円寺 Grain グレインで開催されました。

 登壇者は宇都宮けんじ(当会代表)、瀬戸大作(避難の協同センター事務局長)、松本徳子(福島原発避難者、避難の協同センター代表世話人)の各氏とSpecial Guestとして、鎌仲ひとみ(映画監督)、吉田千亜(ルポライター)の両氏。司会は渡邉由紀子。延べ56人の方が参加しました。登壇者によるトークのほか、フロアーの参加者も交えた質疑応答、意見交換も活発に行われました。そしてイベント終了後は、登壇者を交えた有志による食事会も行われました。

 東京電力福島第一原発事故からまもなく8年になりますが、事故は未だ収束に程遠く、福島県からの避難者だけで4万を超える人々がふるさとを追われて全国各地で避難生活を余儀なくされています。そんな中、福島県と国は細々と続いていた避難者への住宅支援の最後の命綱まで断ち切ろうとしています。

 瀬戸大作氏からは、パワーポイントを使いながら、避難指示区域外避難者が置かれた直近の現状と「原発避難者住宅問題・緊急ホットライン」に寄せられる避難者の声を紹介していただきました。そこでは、「死にたい」というような切羽詰った声、追い詰められた声も多く寄せられているとのことです。それは貧困問題とも共通する面も多いとのことです。そういう中で、国と福島県は、避難指示区域外避難者に対する住宅無償提供を2年前に打ち切り、その後かすかに細々と続けられてきた支援も今月3月末ですべて打ち切ろうとしています。

 区域外避難者は約12,000世帯おり、その内、約6,000世帯が民間賃貸住宅に避難していますが、その中で比較的所得の低い避難者約2,000世帯に対する家賃補助が3月末で打ち切られます。また2年間居住期限を延長されていた、国家公務員住宅からも3月末で退去を迫られています。立ち退きを迫って毎日電話掛けをしてくることまで行っているとのことです。そのため精神的に追い詰められる人も出ているとのことです。
 区域外避難者は現在の世帯月収が10万円以下が22%、20万円以下の世帯が過半数という状況で、避難により毎月の平均世帯収入が8.2万円減り、逆に支出は0.9万円増えるなど、経済的困難の中にあるとのことです。なお福島県(復興庁)は、区域外避難者の実態把握すら放棄し、2016年10月以降、区域外避難者数の公式集計を取りやめてしまったとのことです。
 期限を切っての「自立」の強制や自己責任論の押し付け、福島県への帰還の強制、来年のオリンピックを控えて、あたかも原発事故がなかったかのごとく避難者、被災者を切り捨てる政策の問題点の数々が鋭く指摘されました。また政治家がこの避難者の問題に対して熱心ではないとも述べられました。日本における福祉政策や住宅政策の欠陥が、避難者に対する対応を一層困難にしている実情も語られました。

 瀬戸氏以外の登壇者からも、避難者の置かれた困難な状況、放射能汚染の危険と実態を隠し、帰還を後押しするマスコミや教育の在り方の問題、避難の権利と共に現地に留まった人々にも保養の権利があること、今後も5キロ圏内以外は避難させないとする政府の政策の問題点などが指摘されました。

 宇都宮けんじからは、日弁連会長として東日本大震災、原発事故に際して、福島現地などを訪れたこと、環境問題に関しては予防原則を適用すべきこと、避難するかしないかは自己決定権の問題であること、避難する者と避難しない者に対し差別的取り扱いをしてはならないこと、住宅支援などをする必要性、そして政府の対応の問題点などを語りました。国際的には1ミリシーベルト以下にならないと安全でないとされるのに、政府は20ミリシーベルトまで安全としていますが、それは国際的には通用しないことで、国連の特別報告者も「1ミリシーベルト以下にならないと帰還させるべきでない」とし、また「避難者に対する住宅支援の打ち切りは帰還を強制することになり問題」だと勧告していますが、日本政府はまったく無視しています。

 また日弁連として「子ども被災者支援法」を作ることに尽力しましたが、当時は野党だった自民党の福島出身の議員も熱心に働きかけて同法ができましたが、自民党は与党に復帰したら、その実行をしないと厳しく批判しました。また韓国や沖縄の事例も紹介しながら、政治を変える必要性や福祉や住宅政策の在り方などについて語りました。

文責:紅林進(希望のまち東京をつくる会スタッフ)