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宇都宮けんじブログ
「『天皇制ってなんだろう?』出版記念シンポジウム」(2019年4月24日) 参加者レポート
はじめに
2019年4月24日、宇都宮けんじの新刊『天皇制ってなんだろう? あなたと考えたい民主主義から見た天皇制』(平凡社)の出版記念シンポジウムが行われました。トークゲストは、東京新聞記者の望月衣塑子さんです。当日のトークの模様を希望のまち東京をつくる会スタッフ、斉藤恵がレポートします。
(イベント概要)
演題:『天皇制ってなんだろう?』出版記念シンポジウム
主催:『天皇制ってなんだろう?』出版記念シンポジウム実行委員会
開催日:2019年4月24日(水) 18:30~20:30
開催場所:新宿区牛込箪笥区民ホール
登壇者:望月衣塑子さん(東京新聞記者)
宇都宮けんじ(「希望のまち東京をつくる会」代表)
天皇制を考える事は、民主主義や人権を考えること
第一部では宇都宮けんじさんが登壇、自らのお父さんの思い出から語り始めました。
「僕の父は、青春時代の10年間を戦争に行って過ごしました。青春時代に何一つ楽しい思い出がなく、左足を負傷して、でもその足を引きずりながら過酷な農作業を文句ひとつ言わずに働き続け、僕を育ててくれました。僕は、辛抱強く、でも他人には優しく、実直で誠実な父を見て育ちました」(宇都宮)
帰還兵の中には、戦時中のことは辛すぎて話さない方も多かったようですが、お父さんはよく戦争の話をし「日本は神の国だから、負けるとは思わなかった。」と常々言っていたそうです。尊敬する父親でもそんなことを信じてしまうほど、人間を洗脳してしまうものがあることに驚き、それが何だったかをずっと考え続けた結果、「天皇制」に行きあたったのだそうです。
戦争という過去の歴史との向き合い方にも、天皇制は大きく関係しています。日本では、最高責任者であった昭和天皇が裁かれなかったことで、責任の所在があいまいになってしまったと宇都宮さんは述べます。対してドイツでは、1970年にブラント首相が、ワルシャワで、ゲットーで蜂起したユダヤ人への虐殺を謝罪しています。
「ヴァイツゼッカー首相は1985年の連邦議会の中で『過去に目を閉ざす者は、現在に対してもやはり盲目となる』と語っています。2000年には、強制労働に対する補償財団が創られ、100か国160万人以上の生存者に対して賠償してきました。2005年には、ベルリンに600万人のユダヤ人の追悼モニュメントが造られました。これは事件の記憶を子や孫の代まで伝えて行くという姿勢です」(宇都宮)
この話を聞いていて私が思い浮かべたのは、戦後70年を迎えた2015年8月の安倍首相談話です。総理は戦争責任に関して「子や孫の代まで謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と語っています。実に対照的な態度だと感じました。
また、今回の天皇の代替わりに際し、記紀に「最初の天皇」と伝えられる神武天皇についてテレビなどでとりあげられることが増えましたが、神武天皇が「即位」したとされる「紀元前660年1月1日」は、弥生時代初期であり、当時の日本ではまだ統一国家は生まれておらず、神武天皇は実在の人物ではなく神話上の、伝説上の人物であることは歴史学においても常識とされています。
このように歴史的検証がされていないことを「事実」として扱ったり、近い過去の歴史的事実に対して反省が曖昧であったりすることが、①法の下の平等・民主主義の不徹底、②国民の主権者意識の低さ、③官尊民卑、という事態を招いていると宇都宮さんは指摘し、第二部の望月衣塑子さんに繋げる形で最後にこう述べました。
「日本は議会制民主主義の国。その事をもっと意識し、国民の一人一人が選挙権、被選挙権を行使して民意を政治に反映させることに意識的であるべき。そのためにはメディアが、国民のためのメディアでなくてはなりません。情報公開は民主主義の通貨なのです」(宇都宮)
知る権利と民主主義・権力とメディア
第二部は東京新聞記者の望月衣塑子さんが登壇しました。望月さんは首相官邸記者会見で記者として管官房長官に多くの質問をぶつけています。これらは記者として当然の態度ですが、現在望月さんに不当な圧力が加えられています。
「菅官房長官との会見で、政府にとって不都合な質問をすると、質問中何回も「質問は簡潔に~」という声を上村室長が上げます。(1分半の中で7回など)さらに、官邸報道室に、官邸側が内閣記者会宛に『東京新聞の当該記者の問題行動について、問題意識の共有をお願い』という文書を貼り出しました。」(望月さん)
これは記者会から望月さんを孤立させようとするものです。「事実に基づかない質問は謹んでほしい」、「度重なる問題行動」、「内外の幅広い層に誤った事実認識を拡散」、「会見の意義が損なわれる」と官邸側は言うのです。果たしてそうなのでしょうか。記者の仕事として当然の質問をぶつけているのですから、「事実に基づかない」というのであれば、では事実はどうであるかを説明すべきですが、菅官房長官は全てはぐらかしに終始しています。
「先日も、辺野古の新基地建設の是非を問う沖縄県民投票のためにハンストせざるを得なかった元山さんの件について、政府の認識を訊ねたところ、政府の認識を聞いているのに、返って来た答えは『本人に聞いて下さい』でした」(望月さん)
昨年8月以降は、管官房長官は望月さんに対して「ここはあなたの質問に答える場ではない」と言い始めます。記者会見が、記者の質問に答える場でないのであれば、一体何だというのでしょう。
「望月さんはいつも頑張ってくれていますが、心が折れたりする事はないのでしょうか?」。会場からそんな質問が出ると、望月さんは明るくきっぱりとこう答えました。
「記者の仕事は国民に真実を知らせる事です。そう思うとむしろ力が湧いてきます」
権力に委縮せず、国民の知る権利の為の報道をする事はとても尊い事です。望月さんにはこれからも頑張って欲しいと心から思いました。