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宇都宮けんじブログ
「韓国市民運動に学ぶ政権の倒し方+作り方」イ・テホ氏講演会(2017年11月19日)のご報告
みなさんの心には「どうなっているの ?」「どうすればいいの ?」「何をすればいいの ?」という気持ちが日々強くなってはいませんか。近頃の日本の政治や報道にそのような言葉を投げかけてはいませんか。この講演会には、私たちがチカラある市民となり新しい政治と平和な世の中を作っていくヒントがたくさん散りばめられていました。
市民のチカラで政権交代を成し遂げ 市民が再発見した民主主義の実現を目指し希望ある未来へと歩みを進めている韓国ではいったい何が起こっていたのでしょうか。
2017年11月19日に催された講演会「韓国市民運動に学ぶ政権の倒し方+作り方」では、韓国最大規模の市民団体「参与連帯」創設メンバーであり現政策委員会委員長であるイ・テホ氏をお迎えし、「ロウソク市民革命」「キャンドル・デモ(ロウソク市民革命集会)」を中心に詳しくお話いただきました。また、講演会後には宇都宮けんじが講演会参加者の代表役となりイ・テホ氏への質疑応答がなされました。
このブログでは、講演内容の一部を要約しご報告いたします。
演題:「韓国市民運動に学ぶ政権の倒し方+作り方」チカラのある市民があたらしい政治をつくる
開催日:2017年11月19日(日)
開催場所:東京都文京区区民センター
登壇者:李泰鎬(イ・テホ)氏(韓国市民団体「参与連帯」政策委員会委員長)
宇都宮けんじ(「希望のまち東京をつくる会」代表 )
宇都宮けんじの挨拶
講演会は「希望のまち東京をつくる会」代表の宇都宮けんじの挨拶から始まりました。
今の日本では考えられないような韓国の市民運動や政権交代とソウル市の行政改革などに敬意を表しながら、宇都宮けんじはこの日一日を参加者のみなさんと一緒に勉強し、日本の市民運動のますますの発展とそれが地方自治や政治を変える大きな動きとなるように願っている、と語りました。この後、イ・テホ氏の講演で重要な出来事として紹介される「セウォル号事故」。宇都宮けんじ一行による韓国視察訪問の際に、ソウル市庁舎のそばにある「セウォル号事故」の献花台へ花を手向けた、という一節が胸に響き、犠牲者の方々のご冥福を祈らずにはいられませんでした。
イ・テホ氏の講演
会場の正面に設置されたスクリーンに「キャンドル・デモ(ろうそく市民革命集会)」の映像が映し出され、約80分間にわたるイ・テホ氏の講演に入りました。ここからは、イ・テホ氏の講演内容となります。
政権交代はどのようにして実現されたのか ? 政権と裁判所を変えたのは誰 ?
韓国の朴槿恵(パク・クネ)前政権では権力濫用と収賄などが横行しており、国民の危機であったセウォル号事故においては船が沈み行くなか何も行動せず「政府は災難コントロールタワーではない」とまで主張。2014年に起きたこの事故はまさに惨事です。このような国家の対応から国民は「これが国なのか」と憤りました。
2016年から2017年にかけて行われたキャンドル・デモにおいても、集まった市民たちは口を揃えるかのように「これが国なのか」と言っていました。国は何も出来ない、国は機能していない、国は壊れてしまったと感じていたのです。「国民不在の政治」への絶望と抗議を背景に国政壟断への怒りが爆発します。
まず、パク・クネ政権退陣非常国民行動をキャンドル・デモの主催者が起こし、これに韓国70都市2,300余りの社会団体らがこの運動のネットワークに参加しました。しかし、今回のキャンドル・デモへの団体関係の参加者は全参加者の一部に過ぎなかったのです。では参加者の大多数は誰だったのかと言いますと「自分の身の回りに何かが起こっている」「生活に関わる何らかの危機感を感じている」という大勢の市民だったのです。2016年10月29日から2017年3月11日まで計20回行ったこのデモに参加した人々の人数というのは韓国全人口の32.8%、約1,650万人に昇りました。これは世論調査と私たち参与連帯の集計で明らかとなっている人数です。
この市民の行動、そして、世論とメディアが国会と裁判所を動かしました。今回のキャンドル・デモによって市民社会のダイナミックさとともに代議制民主主義の危機も同時に立証されたのです。その結果、2016年12月に国会では弾劾訴追案が議決されパク・クネ政権は退陣となり、2017年3月には憲法裁判所による罷免決定が下されたのです。この決定が出るまでの間、ずっとキャンドル・デモを続けていました。
2017年5月には早期大統領選挙が行われ、野党第一党だった文在寅(ムン・ジェイン)候補が当選し現在の大統領となりました。弾劾訴追案では、与党を含む全国会議員のうち78%が賛成票を投じ、パク・クネ氏弾劾直前の国民世論調査では国民の78%が弾劾に賛成していました。
政権交代を実現してからの課題はなに ?
これからの課題は、民意を反映させるための政治体制と選挙制度を構築するところにあります。積弊清算と社会改革、参加民主主義の制度化が主な課題です。ここには「情報の透明化」「福祉の充実」も含まれています。また、韓国でも憲法改正についての話が出ていますので内容を見てみましょう。「ロウソク市民革命以後の大韓民国をより良い主権と人権の基盤の上に乗せ、国家権力と憲政秩序が国の主人である市民とすべての人々の幸せと安全、さらに、すべての生命の平和的共存のために服務する」ように制度化するというものです。これは、直接民主化にするという視点から出て来た憲法改正案なのです。ムン・ジェイン現大統領は就任の辞でこのように述べました。「大韓民国の偉大さは国民の偉大さ」だと。
自治体であるソウル市はどんな改革を行ったの ? デモへの反応は ?
大きなものとして「非正規労働者の正規化」「小中学校の給食完全無償化」「就職難若者への青年手当支給」「ソウル市立大学授業料半額化」があります。今回のキャンドル・デモにおいては、デモが平和・安全に行われるようにソウル市が協力をしました。具体的には、警察が高圧放水でデモを阻止出来ないようにするために消防栓への給水をストップしたり、簡易トイレの設置をしたり、保安職員や清掃職員の動員をしたり、夜中でも家に帰れるように地下鉄の終電時刻を遅らせたりするといった協力内容でした。その他にも広場の舞台に設営した超巨大スクリーンは置いたままにさせてくれたり、デモ優先の広場会場使用スケジュールにしてくれたりと様々な便宜を図ってくれました。自治体によるこれらの改革や革新的な対応は2011年10月に現ソウル市長となった朴元淳(パク・ウォンスン)氏とソウル市庁が手がけました。パク・ウォンスン氏は韓国市民団体「参与連帯」の創設者のひとりでもあります。
このように市民運動であるキャンドル・デモを肯定的に受けとめ協力をしてくれたソウル市ではありますが、デモの最後の最後、本当にすべてが終わった後に「こういう協力をいただきました」とだけ紹介しました。
デモの初期以外、パク・ウォンスン市長には一言も壇上で発言してもらっていません。
市民はとりわけ政治家らの政治的発言に拒否感や違和感を覚える状態にあったというのもありましたし、ひとつの政党に偏ったようなデモにはしたくなかったのです。ですので、今回のキャンドル・デモの舞台壇上へは政治家らを上げず発言をさせないという原則がありました。参加した有力な政治家らには最前列に座ってもらって「こういう人たちも参加していますよ」というふうに主催者側のアピールとして使わせてもらいました。
必要だったのは市民が安心して自由に声をあげられる場所だった
集会やデモで本当に大切なことは自由発言です。多くの人たちが自由に発言できる場が大切なんですね。それには、多様な人々が安心して安全に集まれる場を作ることが必要なのです。そして、私たち主催者側の基調発言が大切であるだろうと考えました。
どうやってその場所を作ったのか ? 主催者の努力とは ?
今までの韓国でのデモは平和的ではありませんでした。相対する立場からの攻撃や警察からの妨害が数多く行われていた現実があります。それにより時には尊い人命が失われました。参与連帯は安全で平和な環境確保という側面から保障が得られるよう働きかけ、「大統領府の100メートル前までデモ行進してもよい」という行進仮処分を裁判所から受けました。また、警察が車両を並べ壁として使用しデモを阻止するなどといった行為がありましたので、この警察の行為が違法であるという結果も過去に裁判所から引き出しました。前出のソウル市の協力も大きくあり、今回のキャンドル・デモでは、市民が安全・安心して自由に発言出来る場の確保が叶いました。
多様な人々が集まるということは多様な要求や望みも表出されます。様々な意見・批判・抗議もあります。それらを受けて、私たちはガイドラインとしてのマニュアルを作成しました。これは平和で自由な発言が行える場作りが行えるように、舞台に出て発言する人たちと主催者側の考えや方針を共有するためのものです。私たちはこのマニュアルを退陣行動の「尊重と配慮する集会文化のマニュアル」と名付けました。舞台に出る参加者らへは、お互いを尊重し合い配慮する、そのような「集会文化」を一緒に作りましょうと呼びかけました。
集会とデモからフェスティバルへ、フェスティバルから文化へ
次々と過酷で不条理な現実を経験した国民は、経済に傾きすぎた政治を背景とする経済成長とトリクルダウン効果に対する幻想や思い込みからの脱却を始め、実際に、世論調査の結果が変化していきました。このように世論が変わったことによって集会やデモに対する考え方も変化したのです。
「国民としてはっきりと意思を表すのに集会は効果的である」と答えた国民は74.5%、「集会によって自分の意思が国政に反映される」と答えた国民は60.3%となりました。集会や「動く集会」と呼ばれるデモという行動が国民に意識されるようになったのです。「集会もフェスティバルのように楽しめる一種の文化だ」と考えている国民は69.2%と、今までは「集会やデモをしても何も変わらないだろう」と傍観し興味を持たなかった人々の認識にも変化が起こったのでした。
今回のキャンドル・デモには人気歌手やグループが参加し、広場はさながら大規模コンサート会場と化すこともありました。参加者人数の記録が更新され海外メディアからの注目も集めました。
今、韓国では積弊清算・社会改革・参加民主主義の制度化について活発な議論が行われていますが、それには「市民が自己決定権を持てるように」「市民が自由な発言が出来るように必要だから」という考えが背景にあるのです。
自分の国を客観的に見てみよう
経済協力開発機構(OECD)は各国の状況や動向のデータ集を公開しています。抜粋した2010年のグラフや数値を見て自分の国を分析してみましょう。まずは、生活満足度と自殺率。韓国はどうでしょうか。生活満足度はかなり低く自殺率はとても高いことがわかります。韓国10大企業の売上が国内総生産(GDP)に占める割合は62%、富が偏在していることが分かります。非正規労働者の平均賃金は正規労働者に比べ給料として半分しかありません。韓国の非正規労働者数は820万人で2世帯のうち1世帯には非正規の職に就いている人がいることになります。韓国の出生率は日本よりも悪く、このままだと百年後の人口は350万人になります。労働組合の組織率も韓国・日本・アメリカはものすごく低いですし、投票率も低いです。
次に所得集中度を年代を追って見てみましょう。韓国の人口の全所得に対する所得上位10%の割合の変化は、1995年では約30%であったのに対して2012年は45%で、日本でも1995年の34%から2012年には40.5%となっています。グラフの傾きは「どれくらいの速さでどのように変化しているか」を示しています。韓国では18年間で約16%もの急激な変化がありました。アメリカは二十年間で少ししか変化がありません。世界中見渡しても韓国のような国はありませんが、唯一比較出来る国は韓国の次に所得集中度の高いシンガポールです。こういった統計やデータは、国の現状をよく表しています。
韓国では何が起こっていたのか ? キャンドル市民革命が起こるまで
統計やデータの他にも韓国の現状を表しているものがあります。それが「セウォル号事故」です。2014年に起きたこの事故では、救出される可能性の高かった304人の子ども達が犠牲になりました。乗船していた子ども達には「じっと居なさい」とアナウンスしておきながら船長が先に救出されたという酷い事故でした。
この時、当時のパク・クネ政権は七時間何も動かずメディアは「全員が救出された」というような間違った報道をしていました。しかし、韓国ではSNSが発達していますので子ども達は沈みつつある船の中から「助けてください」「今このような状況です」と家族や警察へメッセージを送っていました。この事故から「国家は国民の安全問題は考えていない」と国民は答えを出しました。国民は船内アナウンスになぞらえて「本当に『じっと居る』しかないのだろうか、これはどういう意味なのだろうか」という疑問も抱き始めました。
そして「『じっと居る』ことをやめよう、忘れないで行動しよう」というところに行き着き、セウォル号事故の真相調査特別法を制定するために600万人の人々が署名を行いました。当時の与党が反対していたので大変な苦労が伴ったのですが、この特別法は一年経って制定されました。けれども、制定された後に委員会は妨害され強制終了させられました。制定の支援をした人たちへの圧力もありました。セウォル号事故は「国民が本当に国家のチカラを求めている時にさえ国家は何も助けてくれない」「もうすでに壊れてしまった国」ということが象徴的に表されたものでもあるのです。2015年にSNSで最も使われたキーワードというのが「セウォル号」でした。その後、ロウソク市民革命が起こったのです。
この市民革命以前にも韓国では社会運動が行われ続けて来ました。双龍(さんにょん)自動車会社の解雇者による抗議運動、韓進重工業(はんしんじゅうこうぎょう)という造船会社の非正規職解雇反対運動、龍山(よんさん)地域開発反対運動、韓米FTA(自由貿易協定)反対運動、米国狂牛病牛肉輸入反対運動、日本の福島原発事故を受けての新規原子力発電所及び送電塔建設阻止運動、済州(ちぇじゅ)の海軍基地建設阻止運動などが近年を代表する運動です。
大学生たちによる授業料引下げ街頭集会や給食無償化運動も行われました。この2つの運動に関しては現ソウル市長のパク・ウォンスン氏や人々がチカラを合わせて事を大きく動かしました。その他にも若者へ大きな影響を与えたものがあります。高麗大学生が始めた壁新聞をきっかけに始まった壁新聞リレーです。これは、SNSを通じて全国の大学とインターネット上で広がりを見せました。
大学生たちは「今まで社会や政治の話をする機会がほとんどなかった、自分の気持ちを答えられるきっかけも場所もなかった」「デモや集会をしているいろんな人々に関心をもって応援すること、私たちはこのことを最初にすべきだと思っている」と語っています。
あらためて発見した民主主義
このような出来事が重なり、「壊れた国」に対する怒りからの訴えが元々にあったので今回のキャンドル・デモへ人々は集まったのですが、そこへ多様な大勢の人々が加わったために一筋の希望が見えて、みんなが参加して楽しめる一種の文化となった場において、市民自らがあらためて民主主義を発見出来たのでした。あらたに見つけたこの民主主義なくしては福祉・民生・平和・安全はないという自覚も生まれました。
集まった人々はいったい何者であるのか ?
キャンドル・デモの広場に出でもしないとやっていられないというような人々がたくさんいたのです。では、キャンドル・デモの広場に出て来た人々とはいったい誰なのでしょう。
それは「自由な市民」です。国家が守ってくれないので福祉システムから自由ということであり、国家を信頼していないので国家が強要した画一的イデオロギーから自由ということであり、政治が自分たちの発言を代弁してくれないので自由ということです。それは同時に、特定の政党に従属しないから自由ということでも社会組織からも自由ということでもあります。つまり「あまりにも自由であまりにも危うい市民」なのです。
おわりに
休憩を挟んで、イ・テホ氏と参加者の代表役となった宇都宮けんじが質疑応答を行いました。ご来場いただいたみなさんからは多くのご質問が寄せられ、韓国主要メディアの対応やキャンドル・デモの秘蔵話など貴重なお話をうかがうことができました。
最後には、イ・テホ氏から日本の市民運動へのアドバイスと激励をいただきました。
「韓国に見習うべきところはないが、デモについては見習うべき」「デモの動きは日本でも始まっている。福島原発事故以降社会運動の様々な変化が起きていると感じられる」「この変化を信じ本当に実現してくという信念が大事だと思う」と述べられました。「世の中は変わる。世の中は変革する」「私はそうなることを望んでいます」とイ・テホ氏が語ると、会場から大きな拍手が湧き起こりました。
宇都宮けんじはイ・テホ氏と力強くも温もりの伝わる握手を交わしながら「市民運動の相互の学び合いや連帯…このような交流が東アジアにおける『本当の平和をつくる運動』になると確信しております」とまっすぐ前を向いて笑顔で語りました。宇都宮の「カムサハムニダ !」(韓国語で「ありがとうございます」)の一言でイ・テホ氏講演会と質疑応答は締めくくられました。
会場の空気は、真摯に耳を傾け共に学び考えようとする参加者の方々の熱意と前を向く明るさで満たされていました。「運動は楽しくなければだめ。深刻になりすぎてうつむいた運動は発展しない」2016年10月での集会で聴いたこの宇都宮けんじの発言が思い出されます。
この講演会へ配布資料が足りなくなるほど多数のお申込みをいただきましたことをこの場をおかりしてお礼申しあげます。
- 集会ツイキャス録画アーカイブ
韓国市民運動に学ぶ イテホ氏 宇都宮けんじ①
韓国市民運動に学ぶ イテホ氏 宇都宮けんじ②
- 集会録画youtubeアーカイブ
【Pirate TV】参与連帯イ・テホ氏来日公演 韓国市民運動に学ぶ・政権の倒し方+作り方 宇都宮健児 2017年11月19日収録
- イ・テホ氏氏講演にて紹介された動画
韓国語を母語とする方々向けのものですので日本語の字幕や解説などはございません。ご了承ください。
キャンドル・デモ
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